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Friday, April 29, 2011

「子ども20ミリシーベルト」に反対し内閣官房参与を辞任した専門家の決断-辞任理由全文があるNHK「かぶん」ブログ、一部削除された報道

(5月6日追記。下記のNHKニュース2つともリンクが切られています。PrintScreen で画像として残しておいてよかったです。)

(5月2日追記。この投稿のコメントで非常に重要な情報が共有されておりますし私も追加情報載せておりますのでぜひご覧ください。

田中泉さんによる小佐古辞任文全文英訳とともに、『アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス』に記事を掲載しました。この問題は海外であまり報道されていないのでぜひ広めてください
20 Millisieverts for Children and Kosako Toshiso’s Resignation (Tanaka Izumi's translation of Kosako Toshiso's resignation letter, with Matthew Penney's introduction

小佐古辞任についてのニュース、20mSV問題に触れての英語報道が5月2日の段階であと二つ見つかっています。SceienceMag, Wall Street Journal をご覧ください。)

3月16日から4月29日まで内閣官房参与を務めた小佐古敏荘氏。「かぶん」ブログより。
 NHK朝7時(4月30日)」ニュースで小佐古氏(内閣官房参与)の涙ながらの辞任会見を見た。この人今までTV等で見たこともなかった。「子ども20ミリシーベルトが許せない」との理由だった。目玉が飛び出るほどびっくりした。私たち市民団体が必死で反対してきた無謀政策である。

小佐古敏荘(こさことしそう)。東大教授。放射線安全学。東大には「御用学者」と批判される人もいるが、この人は学者としての筋を通した。内閣官房参与を務めた人が「子ども20ミリシーベルトは間違っている」と断言して辞任したことの意義は測り知れない。

http://p.tl/XRTk 各社の報道の仕方にも注目。NHKは会見を中継しておいてニュースサイトでは小佐古氏がやめた理由である「子ども20mSV」問題には触れず。倫理的に問題のある報道とはいえないか。

ツイッターで上のようにつぶやいたら情報が入ってきた。この会見の全文がNHKの科学文化部「かぶん」ブログに掲載されていると。削除されたら困るので下に全文転載する。

また、NHKの報道ではこの20mSV問題に触れていないと言ったが、その後ツイッターで、NHKはこの報道を書き変えているのではないかとの情報が入った。おなじ日付、時間で小佐古氏辞任のニュースが二通りあり、一つには小佐古氏が辞めた理由として「子ども20ミリシーベルト」問題が記述されており、もう一つ(私が「倫理的に問題がある」と言った方)は、その部分が削除されている。下方に報道①、報道②として紹介している。「NHK 小佐古 辞任」というキーワードで検索すると報道②(子ども問題が削除されている方)が出てきて、①は出てこない。

政府が従来の国の基準である年間1ミリシーベルトの20倍の被曝を子どもに適用した問題についてはたくさんの市民団体、日弁連、福島県教職員組合等が反対している。署名運動の第一回締め切りは今日、4月30日である。

「子どもに対して年間20ミリシーベルト」撤回を求める緊急署名

小佐古氏は毎日の報道によると
特に小中学校の屋外活動を制限する限界放射線量を年間20ミリシーベルトを基準に決めたことに「容認すれば私の学者生命は終わり。自分の子どもをそういう目に遭わせたくない」と異論を唱えた。
とまで言っている。学者としての尊厳と倫理観を貫いた小佐古氏の勇気ある告発を評価し、このような重要な立場にある専門家が強く反対して辞任した、政府の「子ども年間20ミリシーベルト許容」を見直させるよう私たちは運動を加速しなければいけない。ティルマン・ラフ氏が共同への寄稿文で述べたように、私たちには子どもたちを守る責務がある。

以下資料。

「かぶんブログ」より

2011年04月29日 (金)
官房参与が辞任・記者会見資料を全文掲載します

東京電力福島第一原子力発電所の事故への対応に当たるために、先月、内閣官房参与に任命された、原子力の専門家で東京大学大学院教授の小佐古敏荘氏が、記者会見し、「政府の対策は法にのっとっておらず、場当たり的だ」として、内閣官房参与を辞任することを明らかにしました。

記者会見で辞任の理由について説明した資料を全文掲載します。(文中の下線は、原文のままです)



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平成23年4月29日

内閣官房参与の辞任にあたって
(辞意表明)

内閣官房参与

小佐古敏荘

 平成23年3月16日、私、小佐古敏荘は内閣官房参与に任ぜられ、原子力災害の収束に向けての活動を当日から開始いたしました。そして災害後、一ヶ月半以上が経過し、事態収束に向けての各種対策が講じられておりますので、4月30日付けで参与としての活動も一段落させて頂きたいと考え、本日、総理へ退任の報告を行ってきたところです。
 なお、この間の内閣官房参与としての活動は、報告書「福島第一発電所事故に対する対策について」にまとめました。これらは総理他、関係の皆様方にお届け致しました。

 私の任務は「総理に情報提供や助言」を行うことでありました。政府の行っている活動と重複することを避けるため、原子力災害対策本部、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、文部科学省他の活動を逐次レビューし、それらの活動の足りざる部分、不適当と考えられる部分があれば、それに対して情報を提供し、さらに提言という形で助言を行って参りました。
 特に、原子力災害対策は「原子力プラントに係わる部分」、「環境、放射線、住民に係わる部分」に分かれますので、私、小佐古は、主として「環境、放射線、住民に係わる部分」といった『放射線防護』を中心とした部分を中心にカバーして参りました。
 ただ、プラントの状況と環境・住民への影響は相互に関連しあっておりますので、原子炉システム工学および原子力安全工学の専門家とも連携しながら活動を続けて参りました。
 さらに、全体は官邸の判断、政治家の判断とも関連するので、福山哲郎内閣官房副長官、細野豪志総理補佐官、総理から勅命を受けている空本誠喜衆議院議員とも連携して参りました。

 この間、特に対応が急を要する問題が多くあり、またプラント収束および環境影響・住民広報についての必要な対策が十分には講じられていなかったことから、3月16日、原子力災害対策本部および対策統合本部の支援のための「助言チーム(座長:空本誠喜衆議院議員)」を立ち上げていただきました。まとめた「提言」は、逐次迅速に、官邸および対策本部に提出しました。それらの一部は現実の対策として実現されました。
 ただ、まだ対策が講じられていない提言もあります。とりわけ、次に述べる、「法と正義に則り行われるべきこと」、「国際常識とヒューマニズムに則りやっていただくべきこと」の点では考えていることがいくつもあります。今後、政府の対策の内のいくつかのものについては、迅速な見直しおよび正しい対策の実施がなされるよう望むところです。

1.原子力災害の対策は「法と正義」に則ってやっていただきたい

 この1ヶ月半、様々な「提言」をしてまいりましたが、その中でも、とりわけ思いますのは、「原子力災害対策も他の災害対策と同様に、原子力災害対策に関連する法律や原子力防災指針、原子力防災マニュアルにその手順、対策が定められており、それに則って進めるのが基本だ」ということです。

 しかしながら、今回の原子力災害に対して、官邸および行政機関は、そのことを軽視して、その場かぎりで「臨機応変な対応」を行い、事態収束を遅らせているように見えます。
 
 とりわけ原子力安全委員会は、原子力災害対策において、技術的な指導・助言の中核をなすべき組織ですが、法に基づく手順遂行、放射線防護の基本に基づく判断に随分欠けた所があるように見受けました。例えば、住民の放射線被ばく線量(既に被ばくしたもの、これから被曝すると予測されるもの)は、緊急時迅速放射能予測ネットワークシステム(SPEEDI)によりなされるべきものでありますが、それが法令等に定められている手順どおりに運用されていない。法令、指針等には放射能放出の線源項の決定が困難であることを前提にした定めがあるが、この手順はとられず、その計算結果は使用できる環境下にありながらきちんと活用されなかった。また、公衆の被ばくの状況もSPEEDIにより迅速に評価できるようになっているが、その結果も迅速に公表されていない。

 初期のプリュームのサブマージョンに基づく甲状腺の被ばくによる等価線量、とりわけ小児の甲状腺の等価線量については、その数値を20、30km圏の近傍のみならず、福島県全域、茨城県、栃木県、群馬県、他の関東、東北の全域にわたって、隠さず迅速に公開すべきである。さらに、文部科学省所管の日本原子力研究開発機構によるWSPEEDIシステム(数10kmから数1000kmの広域をカバーできるシステム)のデータを隠さず開示し、福井県*、茨城県、栃木県、群馬県のみならず、関東、東北全域の、公衆の甲状腺等価線量、並びに実効線量を隠さず国民に開示すべきである。 (*原文ママ)

 また、文部科学省においても、放射線規制室および放射線審議会における判断と指示には法手順を軽視しているのではと思わせるものがあります。例えば、放射線業務従事者の緊急時被ばくの「限度」ですが、この件は既に放射線審議会で国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告の国内法令取り入れの議論が、数年間にわたり行われ、審議終了事項として本年1月末に「放射線審議会基本部会中間報告書」として取りまとめられ、500mSvあるいは1Svとすることが勧告されています。法の手順としては、この件につき見解を求められれば、そう答えるべきであるが、立地指針等にしか現れない40-50年前の考え方に基づく、250mSvの数値使用が妥当かとの経済産業大臣、文部科学大臣等の諮問に対する放射線審議会の答申として、「それで妥当」としている。ところが、福島現地での厳しい状況を反映して、今になり500mSvを限度へとの、再引き上げの議論も始まっている状況である。まさに「モグラたたき」的、場当たり的な政策決定のプロセスで官邸と行政機関がとっているように見える。放射線審議会での決定事項をふまえないこの行政上の手続き無視は、根本からただす必要があります。500mSvより低いからいい等の理由から極めて短時間にメールで審議、強引にものを決めるやり方には大きな疑問を感じます。重ねて、この種の何年も議論になった重要事項をその決定事項とは違う趣旨で、「妥当」と判断するのもおかしいと思います。放射線審議会での決定事項をまったく無視したこの決定方法は、誰がそのような方法をとりそのように決定したのかを含めて、明らかにされるべきでありましょう。この点、強く進言いたします。

2.「国際常識とヒューマニズム」に則ってやっていただきたい

 緊急時には様々な特例を設けざるを得ないし、そうすることができるわけですが、それにも国際的な常識があります。それを行政側の都合だけで国際的にも非常識な数値で強引に決めていくのはよろしくないし、そのような決定は国際的にも非難されることになります。

 今回、福島県の小学校等の校庭利用の線量基準が年間20mSvの被曝を基礎として導出、誘導され、毎時3.8μSvと決定され、文部科学省から通達が出されている。これらの学校では、通常の授業を行おうとしているわけで、その状態は、通常の放射線防護基準に近いもの(年間1mSv,特殊な例でも年間5mSv)で運用すべきで、警戒期ではあるにしても、緊急時(2,3日あるいはせいぜい1,2週間くらい)に運用すべき数値をこの時期に使用するのは、全くの間違いであります。警戒期であることを周知の上、特別な措置をとれば、数カ月間は最大、年間10mSvの使用も不可能ではないが、通常は避けるべきと考えます。年間20mSv近い被ばくをする人は、約8万4千人の原子力発電所の放射線業務従事者でも、極めて少ないのです。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは、学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたいものです。年間10mSvの数値も、ウラン鉱山の残土処分場の中の覆土上でも中々見ることのできない数値で(せいぜい年間数mSvです)、この数値の使用は慎重であるべきであります。

 小学校等の校庭の利用基準に対して、この年間20mSvの数値の使用には強く抗議するとともに、再度の見直しを求めます。

 また、今回の福島の原子力災害に関して国際原子力機関(IAEA)の調査団が訪日し、4回の調査報告会等が行われているが、そのまとめの報告会開催の情報は、外務省から官邸に連絡が入っていなかった。まさにこれは、国際関係軽視、IAEA軽視ではなかったかと思います。また核物質計量管理、核査察や核物質防護の観点からもIAEAと今回の事故に際して早期から、連携強化を図る必要があるが、これについて、その時点では官邸および行政機関は気付いておらず、原子力外交の機能不全ともいえる。国際常識ある原子力安全行政の復活を強く求めるものである。


以上

NHK報道①(太字の部分は②の報道では削除されている。太字はブログ運営者がつけた。)



官房参与の原子力専門家が辞任
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110429/k10015638131000.html

4月29日 19時43分

東京電力福島第一原子力発電所の事故への対応に当たるために、先月、内閣官房参与に任命された、原子力の専門家で東京大学大学院教授の小佐古敏荘氏が、記者会見し、「政府の対策は法にのっとっておらず、場当たり的だ」として、内閣官房参与を辞任することを明らかにしました。
小佐古氏は、先月、福島第一原発の事故を受けて、菅総理大臣から内閣官房参与に任命されましたが、29日夕方、総理大臣官邸を訪れて辞任届けを提出し、記者会見を開きました。この中で、小佐古氏は辞任の理由について、「原子力災害対策には、関連する法律や原子力防災指針などで対策が定められており、それにのっとって対策を進めるのが基本だ。しかし、総理大臣官邸などは、今回の対策で法律を守ることを軽視し、場当たり的な政策決定プロセスをとり、誰が決定したのかが明らかでない」と説明しました。さらに、小佐古氏は、文部科学省などが、福島県の小学校などの校庭での活動を制限する目安を、1年間の放射線量の累積で20ミリシーベルトとしたことについて、「これだけの被ばくをする人は、全国の原発業務の従事者の中でも極めて少なく、この数値を小学生らに求めるには、学問上の見地や私のヒューマニズムから受け入れがたい」と述べ、批判しました。東日本大震災の発生後、菅総理大臣は、助言を受けるため、小佐古氏をはじめ、原子力の専門家など6人を新たに内閣官房参与に起用しています。

NHK報道②



官房参与の原子力専門家が辞任
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110429/t10015638131000.html

4月29日 19時43分

東京電力福島第一原子力発電所の事故への対応に当たるために、先月、内閣官房参与に任命された、原子力の専門家で東京大学大学院教授の小佐古敏荘氏が、記者会見し、「政府の対策は法にのっとっておらず、場当たり的だ」として、内閣官房参与を辞任することを明らかにしました。
小佐古敏荘氏は、原子力の専門家で、先月、菅総理大臣から内閣官房参与に任命されましたが、29日夕方、総理大臣官邸を訪れ、辞任届を提出しました。このあと、小佐古氏は記者会見し、「原子力災害対策には、関連する法律や原子力防災指針などで対策が定められており、それにのっとって対策を進めるのが基本だ」と述べました。そのうえで、小佐古氏は「官邸や原子力安全委員会などは、今回の対策において、法律を守ることを軽視し、その場かぎりの場当たり的な政策決定プロセスをとっている。誰が決定したのかが明らかではなく、納得できない」などと述べ、一連の政府の対応に納得できなかったことが辞任の理由だと明らかにしました。内閣官房参与を巡っては、東日本大震災の発生後、菅総理大臣が、小佐古氏をはじめ、原子力の専門家など6人を次々と起用して意見を聞いており、野党側に加え、政府・与党内からも、指揮命令系統があいまいになるなどと批判が出ていました。

Thursday, April 28, 2011

「福島の子どもたちを守らねばならない」:ティルマン・ラフ 共同通信英文記事和訳 Tilman Ruff: Children of Fukushima Need Our Protection (with Japanese translation)

日本国外の専門家からも、「子どもに年間20ミリシーベルト」問題に異論が出ています。共同通信の英語版(4月26日)に、核兵器廃絶運動で活動を続けてきたオーストラリアの医師、ティルマン・ラフ氏の論説が掲載されました。これの日本語記事が日本のメディアに出てきているかどうかは未確認ですが、田中泉さんの翻訳協力を得て、ここに紹介します。(記事内リンクはブログ運営者がつけています。)

この問題についての過去の投稿も併せてご覧ください。

「子どもに対して年間20ミリシーベルト」撤回を求める緊急署名(締め切り4月30日)

福島の学童の被ばく限度について(意見交換)


福島の子どもたちを守らねばならない

ティルマン・ラフ

メルボルン 4/26 共同  

今週初め、私は文部科学省が福島の子どもの電離放射線の許容線量を引き上げたと知り、私は大変な不安に襲われた。

かれらが定めた毎時3.8マイクロシーベルトという値は、一年分にして33ミリシーベルト(mSv)以上に相当する。それが幼稚園児、保育園児、小学生、中学生に対し適用されるのである。このことについて正確に考えてみたい。(訳注参照)

放射線が健康にもたらす危険は線量に比例する、というのが一般的な科学的見地である-線量が高ければ高いほどリスクは大きく、リスクが発生しないレベルなど存在しない。

すべての放射線被曝はできるかぎり低く抑えられるべきであり、一般人については自然放射線と医療措置によるものを含めても年間1mSvを超過すべきではない、と国際放射線防護委員会(ICRP)は勧告している。また原子力産業で働く労働者については5年間の平均線量として年間最大20mSvまでとし、かつ年間50mSvを超える年があってはならない、と。

すでに国際基準より高かった日本の労働者の最大許容線量100mSvは、福島の大事故を受けて250mSvまで引き上げられた。

米国国立科学アカデミーBEIR VII報告書によれば、1mSvの放射線(被曝)は固形癌(白血病以外の癌)については約1万人に1人、白血病では約10万人に1人、癌による死亡では17500人に1人のリスク上昇をもたらすものとみられる。

だがもっとも見落としてならない点は、全ての人間が同じレベルのリスクに晒されるわけではないということだ。放射線による癌のリスクは幼児(一歳未満)の場合、成人の3-4倍になる。また、女の幼児は男の幼児に比べ、2倍感受性が強い。

女性全体の放射線被曝による癌のリスクは、男性に比べ4割高い。また放射線に対して誰よりも敏感なのは、母親の子宮にいる胎児である。

母親がX線検査を受けると胎児は10~20mSvの線量を被曝する。これにより15歳までの子どものあいだの癌の発症率が四割上昇していることが、この分野では先駆的な「オックスフォード小児癌サーベイ」の調査で判明した。

ドイツで最近行われた全国の小児癌登録データ25年分の研究では、通常運転時であっても、原発はそこから5キロ圏内に暮らす5歳以下の子どもの白血病のリスクを2倍以上上昇させていることが明らかになった。

50km以上離れた場所でも、リスク上昇がみられた。これは予想をはるかに上回っており、子宮の中ないし外にいる子どもが放射線に対して特にぜい弱であることを強く示している。

よくある外的な放射線計測器で測られる被曝だけでなく、粒子を呼吸によって肺に吸い込んだり、汚染された食物や水を通して取り込んだりすることで、福島の子どもたちは内部被曝をすることになる。人々の体内には食物連鎖を通して多量の放射性物質が濃縮されるのだ。

一人の親、そして医師として言う。福島の子どもたちがそのように有害なレベルの放射線被曝をすることを許容することは、我々の子どもたちや未来の世代にたいする保護・管理責任の許されざる放棄である。

(ティルマン・ラフ 核兵器廃絶国際キャンペーン代表 オーストラリア・メルボルン大学ノッサル国際医療研究所準教授)

==共同

訳注:国は、一般人の年間被曝は1ミリシーベルト(1000マイクロシーベルト)としてきたが、今回の事故が起こり、大人どころか子どもの年間被ばく量の許容範囲を20倍の20ミリシーベルトに引き上げた。文科省は校庭活動などの屋外活動を一日8時間、残りの16時間は屋内で過ごすと想定し、毎日8時間3.8マイクロシーベルト、16時間1.52マイクロシーベルト浴びたとして、年間20ミリシーベルト(20,000マイクロシーベルト)になるという計算の上で校庭活動等の限度を毎時3.8マイクロシーベルトと定めている。この計算過程は報道ではっきり示されなかったこともあり、ティルマン・ラフ氏はそのまま毎時3.8を24と365でかけて、年間33ミリシーベルトと算出しているようだ。これは誤りではあるが、年間20ミリシーベルトだろうが33ミリシーベルトだろうがこの記事におけるラフ氏の論点や結論には影響を及ぼさない。(参考:『福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について』文科省ホームページhttp://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/04/1305174.htm )

原文:http://english.kyodonews.jp/news/2011/04/87835.html 

翻訳:田中泉 訳注:乗松聡子

Kyodo, April 26

OPINION: Children of Fukushima need our protection

By Tilman Ruff

MELBOURNE, April 26, Kyodo
I was dismayed to learn that the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology earlier this week increased the allowable dose of ionizing radiation for children in Fukushima Prefecture.

The dose they set, 3.8 microsieverts per hour, equates to more than 33 millisieverts (mSv) over a year. This is to apply to children in kindergartens, nursery, primary and junior high schools. Let me try to put this in perspective.

Widely accepted science tells us that the health risk from radiation is proportional to the dose -- the bigger the dose the greater the risk, and there is no level without risk.

The International Commission on Radiological Protection recommends that all radiation exposure be kept as low as achievable, and for the public, on top of background radiation and any medical procedures, should not exceed 1 mSv per year.

For nuclear industry workers, they recommend a maximum permissible annual dose of 20 mSv averaged over five years, with no more than 50 mSv in any one year.

In Japan the maximum allowed annual dose for workers, 100 mSv, was already higher than international standards. This has been increased in response to the Fukushima disaster to 250 mSv.

The U.S. National Academy of Sciences BEIR VII report estimates that each 1 mSv of radiation is associated with an increased risk of solid cancer (cancers other than leukemia) of about 1 in 10,000; an increased risk of leukemia of about 1 in 100,000; and a 1 in 17,500 increased risk of dying from cancer.
But a critical factor is that not everyone faces the same level of risk. For infants (under 1 year of age) the radiation-related cancer risk is 3 to 4 times higher than for adults; and female infants are twice as susceptible as male infants.

Females' overall risk of cancer related to radiation exposure is 40 percent greater than for males. Fetuses in the womb are the most radiation-sensitive of all.

The pioneering Oxford Survey of Childhood Cancer found that X-rays of mothers, involving doses to the fetus of 10-20 mSv, resulted in a 40 percent increase in the cancer rate among children up to age 15.
In Germany, a recent study of 25 years of the national childhood cancer register showed that even the normal operation of nuclear power plants is associated with a more than doubling of the risk of leukemia for children under 5 years old living within 5 kilometers of a nuclear plant.

Increased risk was seen to more than 50 km away. This was much higher than expected, and highlights the particular vulnerability to radiation of children in and outside the womb.

In addition to exposure measured by typical external radiation counters, the children of Fukushima will also receive internal radiation from particles inhaled and lodged in their lungs, and taken in through contaminated food and water.

A number of radioactive substances are concentrated up the food chain and in people. As a parent, as a physician, the decision to allow the children of Fukushima to be exposed to such injurious levels of radiation is an unacceptable abrogation of the responsibility of care and custodianship for our children and future generations.

(Tilman Ruff is chair of the International Campaign to Abolish Nuclear Weapons and associate professor at the Nossal Institute for Global Health at the University of Melbourne, Australia.)

==Kyodo

チェルノブイリ25年、核の「ゴーストタウン」-NYT紙記事翻訳 New York Times "Ghost Town Bears Witness to Lasting Nuclear Scourage"

(5月16日、「朽ち果てた幼稚園の寝台に置き去りになった人形たち」の写真を追加して再投稿しました。)

チェルノブイリ事故から25周年、ニューヨークタイムズに掲載された「核のゴーストタウン」化した町についての記事を田中泉さんが訳してくれました。チェルノブイリより更に悲惨なのは、東電福島第一減原発事故により、震災や津波で犠牲になった方々の遺体がまた多数残されているということです。こんなに酷い状況を生みだした事故から7週間。チェルノブイリ事故も25年経っても、人的、環境被害、原子炉の状況からもとても「収束した」と過去形では言えない状況にあります。福島のこれからの長い道のりを考えると・・・言葉がありません。

福島民報より。原発10キロ圏内、浪江町で遺体捜索の報告をする警察官

ゴーストタウン 果てのない原子力災害の目撃者 
                                                
アリソン・スメイル

25年前、世界最悪の原発事故が当時のソ連領、現ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所において文字通り爆発的に起きた。

しかし、無配慮すぎる炉心のテストがチェルノブイリ原発4号機を粉みじんにしたその時、事実はまったく外に出なかったのである。携帯電話やソーシャルネットワークが次から次へとニュースを伝達するといった、今日のような状況は存在していなかったのだ。

国営の報道機構であるタス通信がきわめて簡潔な表現で事故の発生を伝えたときには、すでに3日が経過していた。

つまり、ソ連の国家機構でもお手上げになるほどチェルノブイリのもたらした影響は甚大だったのだ。当時、国の情報公開をすすめようとしていた国家指導者ミハイル・ゴルバチョフは、悲惨な真実をソ連のメディアに開示させるにあたり、最終的にはこの事故の巨大な力を借りた。

記録的な地震と津波にみまわれた日本の福島第一原発でこの6週間続いている惨事は、チェルノブイリをほうふつとさせる。特に、めまぐるしく変転する情報の流れ、急上昇もしくは急降下する放射能の値、日本の原発事業者と政府の情報公開の姿勢についての疑念。これらによって1986年当時の、あの目に見えない放射能の煙(最終的には東風に乗って世界中に飛散した)が投げかけてきた同じ疑問が沸き起こる。

ゴーストタウンとなったプリピャチ(かつては5万人が住んでいた町。現在もまだチェルノブイリ原発周辺の立入禁止区域内)。必死なのか向こう見ずなのか、見捨てられた家々に忍び込んで略奪をする地元住民。放射能の影響で先天性の病をもつ孫の世話をする男性。これらのイメージが我々に突きつけるのは「人間の技術は、すばらしいことも、恐ろしいことも、両方作り出せてしまうのだ」ということだ。今回の日本の事故で、この教訓を改めて学ぶこととなった。

日本は、かつてのソ連よりも、そして現在のウクライナよりも豊かでまとまった国である。だが広島と長崎の原爆投下の傷を負った日本人ならわかっているように、金と慰めでは、核の悲劇がもたらす長期的な影響を払いのけられないのだ。

チェルノブイリの放射能が1200キロ(750マイル)先のスウェーデンのフォルスマーク原発の警報を鳴らしてようやく、ソ連政府は事故を認めたのだった。先週キエフで開かれた国際会議の席でそうだったように、こんにちのウクライナ当局は終わりなきチェルノブイリ原発封印作業の次段階の実行資金数百万ドルを、各国に強く嘆願している。1986年に何万人もの労働者たちの手で作られた石棺には今やひびが入っているため、それを覆うあらたな石棺が必要なのである。

その外側では、朽ち果てた幼稚園の寝台に置き去りになった人形たちが、ゆがんだ顔をして告げている。そこには生があったのだと-かつては。



(翻訳 田中泉)

ニューヨークタイムズ(4月25日)

New York Times, April 25, 2011

Ghost Town Bears Witness to Lasting Nuclear Scourge

Alison Smale

Twenty-five years ago, the world’s worst nuclear accident literally erupted at the Chernobyl nuclear plant in Ukraine, then part of the Soviet Union.

Yet when a heedless experiment with fuel rods caused the No. 4 reactor at Chernobyl to blow, there was no public echo. No cellphones or social networks relayed the news, as they would today.

It took the official news agency TASS three days to acknowledge, in terse sentences, that there had been an accident.

In the end, the impact of Chernobyl proved too great even for the Soviet state apparatus. Mikhail S. Gorbachev, then the leader, was trying to open up his country and eventually used the enormity of the accident to get the Soviet media to tell a bit more of the dreadful truth.

For six weeks now, the unfolding calamity at the Fukushima Daiichi plant in Japan, stricken in a record earthquake and tsunami, has stirred memories of Chernobyl. In particular, the stream of changing information, soaring or plunging radiation levels and doubts about the openness of the Japanese operator and government recall the questions posed in 1986 by that unseen plume of radiation that eventually traveled westward around the world.

Images of the ghost town of Pripyat, once home to 50,000 people, reinforce the lesson learned anew in Japan: Humans can fashion both wonder and horror with technology.

Japan is wealthier and more cohesive than the Soviet Union was then, or Ukraine is now. But, as Japanese scarred by the atomic attacks on Hiroshima and Nagasaki know, money and comfort do not dispel the lingering effects of nuclear disaster.

Only after the radiation spewing from Chernobyl set off alarms at the Forsmark nuclear plant in Sweden, 1,200 kilometers, or about 750 miles, to the northwest, did Soviet officials even acknowledge an accident. Today, the Ukrainian authorities are vocal in pleading, at an international meeting in Kiev last week, for hundreds of millions of dollars for the next stage of the unceasing containment of Chernobyl: a new sarcophagus to reinforce the now cracked one built by tens of thousands of workers in 1986.

Outside, twisted dolls on broken kindergarten cots remind us there was life here — once.

Wednesday, April 27, 2011

総務省による「インターネット上の流言飛語」を取り締まる要請について

歴史における記録として、この総務省による「インターネット上の流言飛語」を通信会社に取り締まらせる要請を投稿しておく(リンクはここ)。下方参照。これにはインターネット上では批判が続出し、ツイッターで112万人以上(4月29日現在)のフォロアー(読者)を持つソフトバンクの孫正義氏も批判している。
充分な確証無しに「直ちには健康被害無し」も「危険だ」も、どちらも流言飛語になり得る。大丈夫と言われて被曝して「申し訳ありませんでした」と言われても取り返しがつかない。  (孫正義4月6日ツイッターより)
歴代委員長を含む原発推進派学者の重鎮たちも認める深刻な事態。未だにそれを認めず、安全だと言い過ぎる事も「安全流言飛語」の可能性有り。 」(孫正義4月16日ツイッターより)
原子炉の状況についての情報を隠すことや、内部被曝や低線量被曝のリスクを隠すこと、福島と同じく「レベル7」とされたチェルノブイリ事故の夥しい人体と環境への影響を過小評価することも「安全」という「流言飛語」を流していることにならないか。この通達は、具体的にどんな情報を「流言飛語」と呼ぶのか明記していないが、隠されている情報を調査し、提供することを「流言飛語」と呼び統制することは許されない。これが出たとき、私は「ネットで言論活動する私たちは一層気を引き締め、根拠や出典をはっきりさせ責任ある発言をしよう」と仲間たちに呼びかけた。ネットであろうと伝統的メディアであろうと信頼できる情報もそうでないものもある。責任ある言論活動をする必要性は、ネットだけではなく、既存メディアや政府自身にもあることを強く訴えたい。


Tuesday, April 26, 2011

Japanese Government's Understanding of Chernobyl's Health Effects 首相官邸資料「チェルノブイリ事故との比較」の英訳

首相官邸ホームページにある文書「チェルノブイリ事故との比較」の英訳を紹介します。

IPPNW のチェルノブイリ25年報告との比較と合わせてお読みください。

This document was published on the website of the Japanese Prime Minsiter's Office on April 15, shortly after Japan raised its assessment of the Fukushima Daiichi nuclear plant accident from Level 5 to Level 7. Many criticized this document as one that downplays the health effects of Chernobyl and to stresses the difference between Fukushima and Chernobyl to ease the Japanese public anxiety. Before we discuss further, let us present an English version of the document and allow it to be assessed by members of the international community, including victims and families of the Chernobyl accident and experts. We will update this page with comments and further information. Comments are welcome at "Post a comment" at the end of this entry, or by emailing info@peacephilosophy.com .

Here is the link to the original document at the Prime Minister’s Office website. The whole document is quoted below the English translation. http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g3.html

Comparison with the Chernobyl Accident

April 15, 2011

The health effects of the Chernobyl Accident were announced in the 20th year (2006), jointly by eight international organizations including the WHO and IAEA and the three affected republics (Note 1) and a summary was published this year, the 25th anniversary, by UNSCEAR. (Note 2) What follows are comparisons between these reports by the international organizations and the Fukushima nuclear reactor accidents.

1. Those exposed to radiation within the nuclear power plant

- At Chernobyl, 134 people suffered from acute radiation damage, and 28 of them died within 3 weeks. 19 more people passed away up to now, but the relationship between those deaths and radiation exposure has not been recognized.
- At Fukushima Daiichi, the number of people who have suffered from acute radiation damage is zero. (Note 3)

2. Those who worked in cleaning up the site after the accident

- At Chernobyl, the average radiation dose of the 240,000 people was 100 mSV, and there was no health effect.
- At Fukushima Daiichi, there is as yet no one who applies to this category.

3. Residents in surrounding areas

- At Chernobyl, it was calculated that the 270,000 people in highly contaminated areas had radiation dosages of 50 mSV, and 5 million people in less contaminated areas had 10 to 20 mSV, but there was no health effect. An exception was thyroid cancer of children who drank contaminated milk without limit. 6,000 children had surgery, and 15 have died up to now. As for milk in Fukushima, there is no problem, as the provisional standard of 300 Bq/kg (100 for infants) has been observed and milk with over 100 Bq/kg (of radioactivity) has not been distributed.

- The radiation dosage of residents in areas surrounding Fukushima Daiichi has been below 20 mSV, so there will be no radiation effect.

In general, the IAEA states ”With level 7 radiation release, the risk of probabilistic effect (carcinogenic) increases in wide areas, and deterministic effect (physical damage) could occur as well,” but concrete examination of each aspect, as shown above, makes obvious the differences between Fukushima and Chernobyl.


Shigenobu Nagataki, Professor Emeritus, Nagasaki University
Former Board Chair, Radiation Effect Research Foundation, Honorary Chair, International Association of Radiopathology

Yasuto Sasaki, Managing Director, Japan Radioisotope Association, former Board Director of National Institute of Radiological Sciences

Notes:

Note 1: Health effect of the Chernobyl accident: an overview Fact sheet 303 April 2006
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs303/en/index.html

Note 2: United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation, SOURCES AND EFFECTS OF IONIZING RADIATION UNSCEAR 2008 REPORT: Sources, Report to the General Assembly Scientific Annexes Volume II Scientific Annex D HEALTH EFFECTS DUE TO RADIATION FROM THE CHERNOBYL ACCIDENT VII. GENERAL CONCLUSIONS (Original Title 2008 / Published 2011) P. 64 –
http://www.unscear.org/docs/reports/2008/11-80076_Report_2008_Annex_D.pdf

Note 3: Press Release by NIRS (National Institute of Radiological Sciences) “3 gatsu 24 nichi ni hibaku shita sagyoin ga keika kansatsu de hoiken o jushin (Workers who were exposed to radiation on March 24 pay a visit to NIRS for observation),” April 11, 2011.
http://www.nirs.go.jp/data/pdf/110411.pdf

首相官邸ホームページより
http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g3.html

チェルノブイリ事故との比較

平成23年4月15日

チェルノブイリ事故の健康に対する影響は、20年目にWHO, IAEAなど8つの国際機関と被害を受けた3共和国が合同で発表(注1)し、25年目の今年は国連科学委員会がまとめを発表(注2)した。これらの国際機関の発表と福島原発事故を比較する。


1.原発内で被ばくした方
*チェルノブイリでは、134名の急性放射線障害が確認され、3週間以内に28名が亡くなっている。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。
*福島では、原発作業者に急性放射線障害はゼロ(注3)。


2.事故後、清掃作業に従事した方
*チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。
*福島では、この部分はまだ該当者なし。


3.周辺住民
*チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影響は認められない。例外は小児の甲状腺がんで、汚染された牛乳を無制限に飲用した子供の中で6000人が手術を受け、現在までに15名が亡くなっている。福島の牛乳に関しては、暫定基準300(乳児は100)ベクレル/キログラムを守って、100ベクレル/キログラムを超える牛乳は流通していないので、問題ない。

*福島の周辺住民の現在の被ばく線量は、20ミリシーベルト以下になっているので、放射線の影響は起こらない。

一般論としてIAEAは、「レベル7の放射能漏出があると、広範囲で確率的影響(発がん)のリスクが高まり、確定的影響(身体的障害)も起こり得る」としているが、各論を具体的に検証してみると、上記の通りで福島とチェルノブイリの差異は明らかである。

長瀧 重信 長崎大学名誉教授
    (元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)

佐々木 康人 (社)日本アイソトープ協会 常務理事
     (前 放射線医学総合研究所 理事長)

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原典は以下の通り。
[注1]. Health effect of the Chernobyl accident : an overview Fact sheet303 April 2006 (2006年公表)
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs303/en/index.html 

[注2]. United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation, SOURCES AND EFFECTS OF IONIZING RADIATION UNSCEAR 2008 Report: Sources, Report to the General Assembly Scientific Annexes VOLUMEⅡ Scientific Annex D HEALTH EFFECTS DUE TO RADIATION FROM THE CHERNOBYL ACCIDENT Ⅶ. GENERAL CONCLUSIONS (2008年原題/2011年公表) P64~
http://www.unscear.org/docs/reports/2008/11-80076_Report_2008_Annex_D.pdf

[注3]. (独)放射線医学総合研究所プレスリリース「3月24日に被ばくした作業員が経過観察で放医研を受診」2011.4.11
http://www.nirs.go.jp/data/pdf/110411.pdf

Monday, April 25, 2011

大原発事故から25年:『チェルノブイリ原発事故・終わりなき人体汚染』(NHK・1996年放映)が伝える大事なこと

4月26日はチェルノブイリ原発事故25周年です。亡くなった方たち、今も被害に苦しむ人たちに想いを馳せています。

福島事故が「レベル7」と発表された後、4月13日に仲間たちにこう書きました。

もうレベル7となった以上、危機意識を喚起する必要はないと願いたい。しかし今度は、福島がチェルノブイリと比べいかに軽度かと強調し、そしてチェルノブイリの被害自体の過小評価の傾向がエスカレートしているようだ。/ そんな暇があったら放射線のリスクや、核発電の危険さや愚かさ、核発電から脱却する新しいエネルギーのあり方を学ぼう。/ 孫崎亨さんのツイッター「マスコミの信用度:今なすべきはレベル7が如何なる危険性を持つかの説明。しかし一斉に危険度低い印象で報道。これ何。朝日:チェルノブイリと全く異なる、読売:チェルノブイリとは異なる、:毎日:チェルノブイリ級ではない、日経:チェルノブイリ全く異なる。こういうのを談合報道とでも言うか。」/ - 私(Satoko)は日本時間12日夜11時50分にやったNHK「持論公論」を見ていました。(カナダ西海岸のテレビジャパン。日本の放映時間と一緒だったかは未確認)/私が昨日ここで紹介したNHKの以前のチェルノブイリ・福島の比較よりはずっとましでした。http://p.tl/168G 福島は放射線量ではチェルノブイリの10%程度とされながらも、チェルノブイリでは10日程度である程度おさまったこと、問題になった原子炉が1つしかなく福島のような同時多発事故ではなかったこと。福島ではチェルノブイリにはなかった汚染水による海洋汚染があったこと。/ しかし驚いたのは、チェルノブイリの人的被害で、被ばくした作業員29名の死亡のことを言ったあと、他の被害についてほとんど触れなかったこと。/過小評価の批判があるチェルノブイリ・フォーラムでさえ小児甲状腺ガンを4000人、ガン死数も約4000としている。2006年のWHO報告ではガン死9000人。京大の今中哲二の論文参照http://p.tl/3b3e%20/ 2006キエフ会議では3-6万人、2006年のグリーンピースは9万23千。2010のニューヨークアカデミーオブサイエンス出版の研究では100万人近い。http://p.tl/3QoB / NHK「持論公論」はこういったガンによる被害者については一切言及なし。ああ、これからは日本のメディアもチェルノブイリの被害を過小化する時代が来るのだと思った。NHKは広島長崎から劣化ウラン、核実験、第五福竜丸事件まで、非常に先進的な特別番組を作ってきていて尊敬してきた。/ 『チェルノブイリ原発事故・終わりなき人体汚染(1996)』や、『汚された大地でーチェルノブイリ20年後の真実』(2006)だ。数々の調査研究をもとに、WHOやIAEAの報告の過小評価を追及する姿勢もあった。今後、チェルノブイリの真実が日本政府や電力会社に都合が悪くなったからといって急にこういった番組を作るのをやめたり、知っているはずのチェルノブイリの被害を言わなかったりすることはないと信じて期待している。被ばく国、日本のメディアの真価が問われている。
上で触れているチェルノブイリ後10年、20年の節目で制作されているNHKの2つの番組は YouTube 等で出回っており、もちろん著作権侵害で削除されるのは仕方ないことですが、非常に重要な番組なので、内容を書き起こして記録することにしました。まずは10年目、1996年放映の『チェルノブイリ原発事故・終わりなき人体汚染(1996)』。書き起こしをしていただいた原京子さんに深く感謝します。関心のある方は、NHKからDVDが販売されているか、「オンデマンド」で視聴ができるかなど調べられてはいかがかと思います。

これからも、福島に関連し、チェルノブイリの大事な情報を伝えていきます。このサイトの過去のチェルノブイリ関連の投稿はこちらのリンクをご覧ください

チェルノブイリ原発事故・終わりなき人体汚染

(映像:チェルノブイリ原発4号炉)
十年前の今日、チェルノブイリ原発4号炉の爆発事故によって人類史上最悪の放射能汚染が引き起こされました。30万人以上の人々が家を失い、今も700万人以上の人々が汚染された大地に暮らしています。事故直後、コンクリートによって封じ込められた4号炉は、いまだに強い放射線を出し続けています。
放射能は、人々から大地と家を奪い続けています。おびただしい量の「死の灰」は、広大な地域に降り積もり、人が住むことのできない汚染台地を作り出しました。

事故がもたらした人体への影響は、十年という歳月を経て、風化するどころか、逆に深刻さを増しています。長い潜伏期間を経て、癌や白血病などが急激に増加しています。そして、放射能の影響は脳にまで及んでいることがわかってきました。被爆者の身体の中で何が起きているのか、世界中の科学者たちが詳しい調査や分析を続けてきました。その結果、新しい事実が次々と明らかになってきました。チェルノブイリ原発事故による放射能人体汚染は、十年という時を経て私たちの前に想像を遥かに越える姿を見せはじめたのです。

<タイトル  終わりなき人体汚染  ~チェルノブイリ事故から10年~>

十年前、チェルノブイリ原発事故で被曝し避難してきた人々の間に、また悲劇が起きました。ひとりの幼い命が失われたのです。少女は、事故当時3歳でした。4ヶ月前、背中に小さなこぶができ、手術を受けましたがその後再発。みるみる病状は悪化し、癌で亡くなりました。5千人余の避難民が暮らすこの地区で、毎週のように人々が亡くなっています。少女の死は、チェルノブイリ事故の呪縛から今も逃れられない現実を、改めて見せつけたのです。

1986年4月26日未明、チェルノブイリ原子力発電所4号炉が突然、爆発・炎上しました。広島型原爆5百個分以上の放射性物質が放出され、原発周辺は強烈な放射能に包み込まれました。放射能が最初に襲った街は、原発からわずか3キロのプリピャチでした。しかし、事故が起きたことは市民には伝えられず、人々はいつもと変わらぬ朝を迎えていました。

事故当日のプリピャチの映像です。画面の一部が時々白く光るのは、強烈な放射線でフィルムが感光しているためです。

チェルノブイリから放出されたセシウム137などの放射性物質は、上空1500メートルにまで舞い上がり、ヨーロッパをはじめ、世界中に広がりました。原発から半径600キロの範囲の汚染は深刻で、その面積は12万平方キロ、日本の国土の3分の1近くにも達します。黄色から濃い赤になるほど、汚染のレベルが高いことを示します。(映像:汚染地域の地図)

一番濃い赤の地域は、東京のレベルの40倍以上にも達しています。最も汚染の少ない黄色の地域でも、日本の基準では立ち入り禁止区域に相当します。WHO・世界保健機関の調査によると、いまだに780万人もの人々がこの汚染地域で生活し、放射線を浴び続けています。広島や長崎では、人々は一瞬のうちに大量に被爆しました。しかし、チェルノブイリでは、住民が長期間にわたって少しづつ放射線を浴び続けているのです。

住民は、放射能が降り積もった大地から、直接放射線を浴びています。さらに、汚染された空気や水、そして食べ物が体内に入ることによって、身体の中からも被爆しています。住民はこの十年間、二つの被爆を同時に受け続けてきたのです。

(映像:IAEAチェルノブイリ調査報告書(1991年))
チェルノブイリの放射能による人体への影響は、どのように考えられてきたのか。これは、事故から5年後、IAEA・国際原子力機関がまとめた報告書です。当時の住民の健康状態を調査した結果、「放射能が直接に影響したと考えられる健康被害は認められない」と結論づけています。そして、今後起こりうる住民の健康被害については、「将来、癌または遺伝的影響による増加があったとしても、それは自然の増加と見分けることが困難であろう」と予測しています。

(映像:ウクライナ共和国 キエフ市)
しかし、IAEAの予測に反して、その後深刻な事態が次々と起き始めました。
異変は、まず子供たちに起きました。この少女は、小児甲状腺癌の治療を受けています。本来、百万人に一人か二人しかかからないという小児甲状腺がんが、子供たちを中心に急激に増加しはじめたのです。

甲状腺は、身体や脳の発達に不可欠な甲状腺ホルモンを作る重要な器官です。チェルノブイリ事故により放出された放射性物質のひとつ、“ヨウ素131”は、体内に入ると甲状腺に蓄積しやすく、癌を引き起こします。その結果、甲状腺ホルモンの分泌異常が起き、成長期の子供の身体や脳の発達が遅れてしまう恐れがあります。

この少女は、事故当時4歳でした。チェルノブイリ型の甲状腺癌は、通常のタイプに比べて進行が早く、転移しやすい特徴があります。このため、発見され次第直ちに手術しなければなりません。この少女の甲状腺にも癌の黒い影が発見されました。

(キエフ内分泌代謝研究所;ミコラ・トロンコ所長)
「最初に子供たちに甲状腺癌が増え始めた時は、私も正直言って放射能の影響と言えるかどうか半信半疑でした。しかしその後、汚染の高い地域ほど患者が多く、しかも癌のタイプが通常のものと違うことから、放射能の影響に間違いないと確信しました。これから更に患者は増えていくと予想しています。」

(グラフ:ウクライナ・ベラルーシ・ロシア西部の小児甲状腺がん発生率)
WHO・世界保健機関の調査によると、小児甲状腺がんは事故から4年後の1990年から急激に増え続けています。

(映像:キエフ小児産婦人科研究所)
最近、汚染地域に住む妊婦たちの身体に、様々な異変が起きていることがわかってきました。キエフ小児産婦人科研究所では、事故直後から汚染地域に住む妊婦2万人以上について、出産に関する詳しい調査を続けてきました。その結果、汚染地域の妊婦の貧血が事故前に比べて10倍に増えたほか、死産や早産が多く発生していることがわかりました。出産異常の原因をさらに詳しく分析してみると、子宮内の出血や早すぎる破水などが増える傾向にあり、主に母体の異常が死産や早産を引き起こしていることがわかりました。

妊娠5ヶ月のこの女性は、事故当時11歳でした。これまでに一度、死産を経験しているため、不安を感じてこの研究所に検査を受けにやってきたのです。
(医師)
「胎盤が厚くなりすぎています。胎児に酸素不足の兆候がありますね。」

胎盤は、胎児に酸素や栄養を供給する重要な役割を果たしています。胎盤は、通常この時期であれば2センチほどの厚みですが、この妊婦の場合5センチ以上に肥大しています。これは、子宮内の酸素が不足していることを示し、このままでは胎児の成長に深刻な影響が出る恐れがあります。画面右側が胎児の頭です(映像:胎児の超音波写真)。この胎児の頭の直径は4センチほどしかなく、通常の胎児に比べて成長が遅れていることがわかりました。この研究所では、「こうした妊娠中の異常は汚染地域の妊婦によく見られる」と指摘しています。

(キエフ小児産婦人科研究所:ダシケビッチ産婦人科部長)
「深刻な状況です。かつてのIAEAの予測と大きく食い違ってきています。私は、その原因は長期間の被爆のためだと思います。今後、長期的な被爆の影響を注意深く調査していかなければいけないと思います。また、妊婦や新生児に染色体の異常も見られるので、今後世代を越えた遺伝的影響が出てくるかもしれません。」

汚染地域では、事故後人工中絶の数が急増しています。放射能による被爆が、胎児に悪い影響を与えるのではないかという不安もあるからです。

ミンスク遺伝性疾患研究所。ここでは、チェルノブイリ原発事故によって被爆した妊婦の染色体にどのような変化が起きているのかを調べています。放射能の汚染地域に住む妊婦、2千人以上の血液細胞の染色体を詳しく分析してきました。その結果、被爆量が高い妊婦ほど、染色体の異常の程度が大きいことがわかりました。染色体には、親から子供へ生命の情報を伝える遺伝子がのっています。

右の染色体の上の部分にわずかな異常が見られます(映像:染色体の写真)。もし、この部分の遺伝子の異常が子供に受け継がれると、先天性の障害につながる可能性があると、この研究所の専門家はみています。

(ミンスク遺伝性疾患研究所:ゲナジー・ラジュック所長)
「我々の調査では、妊婦の染色体の異変ばかりでなく、新生児の先天性異常も汚染の高い地域ほど増えていることがわかりました。その原因としては、ストレスや栄養障害や化学物質による汚染など、様々な複合的要因が考えられます。しかし、それらの中でもひとつの大きな要因として放射能の影響を考えなければならないと思います。」

この研究所の調査によると、放射能の高濃度汚染地域では、先天性の異常をもった新生児の数が事故前の1.8倍に増加しています。しかし、汚染地域の妊婦の染色体異常と新生児たちの先天性異常の増加に因果関係があるかどうかは、まだわかっていません。ラジュック所長は、今後さらに詳しい調査と遺伝子レベルでの研究を進めていかなければならないと考えています。

放射能は、人類にとって未知の部分の多い存在です。チェルノブイリ原発事故によって放出された放射能が人体にどのような影響を与えているのか、その全容はまだ解明されていません。

キエフ市トルイシェナ団地。チェルノブイリ原発のすぐそばにあったプリピャチから避難してきた5千人余が住んでいます。

ウラジミル・ルキヌさん。47歳。ウラジミルさんは、事故のあと激しい頭痛・心臓や関節の痛みなどが次々と現れ、一年半前から仕事ができなくなってしまいました。最近では、強い疲労感や脱力感もあり、一日のほとんどをベッドの中で過ごす毎日です。

ウラジミルさんは、チェルノブイリ原発で働いていました。事故直後、チェルノブイリ原発の周辺にはウラジミルさんを含め、大量の事故処理員が動因されました。飛び散った原子炉の残骸の処理に当たるなど、危険な作業に携わったため、最も深刻な放射能の影響を受けました。強烈な放射線による急性障害で、半月の間に299人もの人が病院に運び込まれ、そのうち7人が亡くなりました。最も高い被爆量の作業員は、一般の人の生涯の被爆許容量の10倍以上を、わずか数時間で受けたと推定されています。処理作業に参加した作業員の数は、80万人以上にのぼります。

チェルノブイリで事故処理をしたウラジミルさんの身体に、最近新しい異変が起き始めました。記憶力が低下し始めたのです。昔のことはよく覚えているのに、最近起きた出来事や新しいことをすぐ忘れてしまうのです。妻のタチアナさんは、ベッドに閉じこもりがちなウラジミルさんを外へ連れ出し、記憶力を回復させようと、買い物を手伝ってもらうことにしています。この日、ウラジミルさんが頼まれたのは、パン・スパゲテイ―・小麦粉・卵、それにミネラルウォーター2本です。パンは買いましたが、ミネラルウォーターのかわりにジュースを買ってしまいました。そして、卵と一緒に、頼まれていないマヨネーズまで買いました。結局、スパゲテイーと小麦粉は買い忘れてしまいました。

チェルノブイリ原発事故の処理作業に参加した80万人以上の事故処理員たちの身体に何が起きているのか、これまでほとんど知られてきませんでした。しかし、最近になって、その人たちの間に深刻な病気が広がっているという実態が明らかになってきました。

ウラジミルさんは、記憶力の低下など、精神的な症状が現れてきたため、専門医に診察してもらうことにしました。

(医師)「原発で事故後、どんな仕事をしたのですか?」
(ウラジミル夫妻)「施設の補修や放射能の除去です。柵をつくって囲むとか、兵隊が埃やチリを取り除いた後、薬品で洗い流す仕事です。」
(医師)事故の前も後も4号炉のすぐそばで働いたのですね。」
(ウラジミル夫妻)そうです。

ウラジミルさんは、思い通りに身体を動かすことに不自由を感じるようになってきました。目を閉じて、自分の鼻先を指で指すという簡単な動作さえ、できにくくなっています。神経系にも、異常が出てきたのです。

この患者は、事故の直後、原発内で放射能の測定をしていました。2年前から幻覚や幻聴に悩まされています。

「光を受けると胸が締めつけられて、とても息苦しくなるんです。耳鳴りやチカチカという雑音が聞こえてくることもよくあります。」

(映像:キエフ放射線医学研究所)
また、事故処理員たちの間では、治療の難しい悪性のタイプの白血病が急速に増え始めています。この研究所が健康調査を続けてきた12万人のうち、この2年間に42人の白血病患者が発生しています。この研究所では、今後、白血病が事故処理員たちの間にさらに広がるだろうと予測しています。

(映像:放射線生物物理学研究所「事故処理員の後遺症と将来予測」1995年)
ロシア保健省放射線生物物理学研究所の内部文書。事故後、2年の間に参加した事故処理員1886人の健康状態について、8年間追跡調査したものです。それによると、事故処理員たちの間に、心臓病・精神や神経障害・癌が多発しています。癌の発病率は、一般の人の3倍、4人に1人は労働不能の状態に陥っています。そして、30代の人たちがまるで50代のような身体になっていると結論づけています。この調査では、さらに将来予測を試みています。その結果、「事故のあった年の処理員の100% が、西暦2000年には労働不能状態に陥る。さらに、そのときの平均死亡年齢は44.5歳になるだろう」と報告しています。

(映像:ウラジミル・ルキヌさん 47歳)
去年の暮れ、ウラジミルさんと同じ事故作業をしていた仲間が、脳腫瘍で亡くなりました。ウラジミルさんより、5歳も年下の42歳でした。

(妻・タチアナさん)
「上の階に住む25歳の若者が、先日車に飛び込んで自殺しました。今頃になって性的障害が現れ、夫婦生活が崩壊すると悲観したのです。隣では奥さんがガンで亡くなりました。36歳でした。ご主人はその後、酒びたりとなり、最後には自殺しました。神様、夫にこれ以上何も起きませんように。」

チェルノブイリ原発事故の直後からはじまった住民の移住は、汚染の高い地域を中心に今も続いています。しかし、この10年に渡る移住政策は、行政に大きな経済的負担を強いてきました。事故5年後のソビエト崩壊によって、汚染地域はロシア、ウクライナ、ベラルーシの3カ国に分割され、汚染対策の負担を分け合わなければならなくなりました。中でも最も大きな負担を抱えこむことになったのが、ベラルーシ共和国です。ベラルーシでは国土の23%が放射能で汚染され、今も220万人もの人々が暮らしています。これは、国民の5人に1人の割合です。

(映像:ベラルーシ共和国  ミンスク市)
ベラルーシは、これまで毎年国家予算の15%以上をチェルノブイリ対策につぎ込んできました。しかし、政府は悪化する一方の国内経済を理由に、今年から汚染対策の大幅な見直しを決定しました。

(チェルノブイリ対策省:イワン・ケニク大臣)
「我々は、これまでの移住中心の対策をやめて、汚染地域に住む人たちに今後とも住み続けてもらうことを考えています。そのためには、汚染された薪や井戸水を使わなくてもよいよう、ガスや水道などの整備をするつもりでいます。このまま対策を続けていったとしても、すべての地域をカバーするには150年もかかってしまうのです。財政状況の悪化から、今までどおり国家予算の15%をつぎ込むことは困難なのです。」

ベラルーシ政府の方針転換は、汚染地域に住む人々にとって大きな衝撃となりました。事実上の移住政策の打ち切りは、住民たちが汚染地域に住み続けなければならないことを意味しています。

人口1万5千人ほどのチェチェルスク地区。この地区は、自給自足の農村地帯です。一部の畑は、今でも場所によっては東京の15倍以上の放射能で汚染されています。このため、住民は汚染された畑の作物を食べ、被爆し続けています。
住民たちのもうひとつの食料源が、周囲に広がる広大な森です。しかし、この森は事故直後、放射能を大量に含んだ雨が降ったため、場所によっては10年経った今でも東京の100倍以上の高い放射能で汚染されています。村の人たちにとって森は、キノコや木の実、野生動物など貴重な食料や、燃料となる薪を供給してくれる大切な存在です。

この村に住むレイナさんの一家も、この日キノコを採りに森へやってきました。16歳のレイナさんは、事故から5年経った頃から、ひどい頭痛と疲労感に悩まされ、体調の悪化を訴えています。

この村に住む唯一の保健婦のゲラシンコさん。村人たちの家を巡回しながら、健康管理をするのが日課です。ゲラシンコさんは、今、村人の健康状態が確実に悪化していると感じています。それは、年齢を問わず、村人全般に渡っています。

(保健婦:ワレンテイ―ナ・ゲラシンコさん)
「私は、事故の前からこの村の人たちの健康管理をしてきました。しかし、最近の村の人の身体を診て、本当に驚いています。すっかり健康状態が悪くなっているんです。以前は、重い病気の人なんてめったにいなかったのに、今では病人のいない家庭は無いくらいです。やはり、食べ物による放射能の影響ではないかと思います。」

(映像:チェチェルスク地区病院)
チェチェルスク地区の人々の身体には、食品を通して放射能が入りこんでいます。その結果、人体にどのような影響が起きるのか、各国の医学者たちがさかんに現地を訪れ研究をすすめています。信州大学医学部講師の小池医師たちは、5年前から毎年この地区を訪れ、住民たちの健康診断を続けてきました。

(信州大学医学部:小池健一講師)
「この人は、たしか前に来られた人ですね。覚えてます。」

住民たちの体内に放射能がどれだけ蓄積しているかを測定し、健康状態との関係を調べています。

(信州大学医学部:小池健一講師)
「そうですね、1023マイクロキューリーで、3万7千で血球数(?)非常に高いです。日本人の25倍ぐらいの高さですね。」

小池医師たちは、特に住民たちの免疫、つまり身体の抵抗力の変化に注目しています。放射能による長期間の被爆によって、免疫の異常が起き、それが頭痛や疲労感などの症状を引き起こしているのではないかと考えたのです。血液中の免疫細胞のひとつ、ナチュラルキラー細胞の働きを調べました。汚染されていない地域と比べると、この地区では正常な免疫機能の範囲から大きく外れる人たちが数多くいることがわかります。(グラフ:チェチェルスク地区と非汚染地のNK細胞活性の比較)

(信州大学医学部:小池健一講師)
「今までにナチュラルキラー細胞の働きが弱くなるということが、白血病の前の段階で見られるというデーターがあります。ですから、こういうナチュラルキラー細胞に異常が出た方が、今後抵抗力だけではなくて癌であるとか白血病であるとか、そういうような病気を一人か二人でも出てくるのであれば、やはりこれは大きな問題になってくるだろうと思いますね。」

免疫の異常は、ウィルスや細菌に対する身体の抵抗力を弱め、様々な病気を誘発します。
小池医師たちは、住民たちの健康状態の変化を将来にわたって見続ける必要があると考えています。

ベラルーシ政府は、水道やガスなどの汚染対策は行なう予定ですが、安全な食品の供給までは考えていません。また、安全な食品はあっても値段が高いため、チェチェルスク地区の住民たちは、このまま自給自足の生活を続けていかざるを得ないのです。

(レーナさんの姉:アンナさん)
「私たちは国から見放されたんです。汚染された食品を食べ続けてベラルーシが滅んでも、地球全体には何の影響もないでしょう。ひとつの民族が消えたという程度ですよ。」

汚染された食品を食べ続けることで、今後身体に何が起きるのか。住民たちの不安が次第に高まっています。
チェチェルスク地区と同じような生活を強いられている人々は、ベラルーシ全体で35万人にも上ります。

(映像:キエフ脳神経外科研究所)
キエフにある脳神経外科研究所。ここでは、重い精神症状に悩む事故処理員500人以上について、検査と治療を続けてきました。その結果、事故処理員たちの脳に異変が起きていることが明らかになってきました。

(医師)
「この患者は脳に障害があり、うまく話せません。」
(患者)
「彼は。。。まだ少ない。。。これから。。。たくさんある。。。まだ少ない。。。。」
(医師)
「自分ではちゃんと話しているつもりなのです。」
(患者)
「210大隊。。。苦しい。。。わからない。。。何を話せばいい。。。よくなる。。。」

事故のあった年に、緊急部隊の一員として動員されたこの患者は、相手の言うことは理解できますが自分で話そうとすると意図しない言葉が出てしまうのです。
脳は、これまで人間の身体の中で最も放射線に対する抵抗力が強いと言われてきました。このため、事故処理員たちに起きている様々な精神症状の原因は、主にストレスによるもので、脳がチェルノブイリの放射能によってダメージを受けたわけではないとされてきました。

(映像:モスクワ診断外科研究所)
しかし、複数の機関による最新の研究がその定説を覆そうとしています。
モスクワ診断外科研究所では、精神症状を抱える事故処理員たちの脳の状態を詳しく研究しています。今、脳の中の血液の流れを調べています。これは、上から見た脳の断面です。白い部分は、血液の流れが活発です。この患者は、脳の左側に血液の流れが悪い部分があります。

(放射線医学部:ニーナ・ホロドワ上級研究員)
「精神症状のある事故処理員の患者、173人を検査したところ、程度の差こそあれ、全員に異常が発見されました。彼らは、脳の血液の流れが悪いだけでなく、神経細胞の働きまでが低下しています。」

脳の状態をさらに詳しく調べた結果、事故処理員たちの脳に萎縮が見られることがわかってきました。
写真の白い部分は、空洞。灰色の部分には、神経細胞が集まっています。40代後半のこの事故処理員の場合、空洞を表す白い部分が脳の中心に大きく広がり、脳全体が萎縮しています。
同年代の健康な人の脳と比べてみると、神経細胞がつまっている灰色の部分がはるかに少なく、神経細胞が死んでしまったことを示しています。

(映像:キエフ脳神経外科研究所)
神経細胞の死滅は、放射能によって引き起こされたのでしょうか。キエフ脳神経外科研究所では、放射能による被爆で神経細胞の死滅が起きるかどうか、ラットを使って実験しています。チェルノブイリ原発事故で放出されたものと同じ種類の放射性物質を、餌に混ぜてラットに与えます。一ヶ月間、この餌を食べ続けることで、ラットは、人間に置き換えれば、事故処理員とほぼ同じ量の被爆を受けることになります。一ヵ月後、ラットの脳の神経細胞にどのような変化が起きているか、顕微鏡で詳しく調べます。
被爆したラットの神経細胞は、輪郭がはっきりせず、ぼやけて見えます。被爆していないラットと比べてみると、明らかな差が見られ、神経細胞が死滅したことを示しています。

(キエフ脳神経外科研究所:アレクサンドル・ビニツキー教授)
「死亡した事故処理員の脳を解剖したところ、放射性物質が蓄積していました。“脳は放射能に対する抵抗力が強い”という定説は、覆ったのです。脳の破壊が、様々な精神症状や身体の病気の原因だったのです。作業中に大量に吸い込んだ放射性物質が、脳にまで入り込み、まるでミクロの爆弾のように神経細胞を破壊していったと考えられます。」

ビニツキー教授の考えは、こうです。事故処理員たちが、作業中に大量に吸い込んだ放射能が血液にによって脳の中にまで運びこまれます。そして、放射線を周囲の神経細胞に浴びせながら少しずつ破壊していくのです。破壊された神経細胞は、もとにもどることはありません。身体の中に入った放射能が多いほど、脳の破壊が進み、やがて脳の機能が失われていきます。脳のもっとも外側が破壊されると、知的な作業ができなくなったり、記憶力が低下します。特に影響を受けやすいのは、視床下部や脳幹など、中心部で、ここが破壊されると食欲や性欲が失われたり、疲労感や脱力感に見舞われます。また、内臓の働きが悪くなったり、手や足の動きをうまくコントロールできなくなるなど、身体全体に影響が出ます。いずれも、事故処理員によくある症状です。

この冬、ウラジミルさんの病状は更に悪化していました。簡単な計算も間違えるようになり、ひとりでは買い物もできなくなってしまいました。

ウラジミルさんは、再び脳の専門病院を訪ね、詳しい検査を受けることになりました。
脳の状態に問題はないのか、MRIという画像診断装置を使って、詳しい検査を受けます。
その結果、脳に異常が発見されました。前頭葉と呼ばれる脳の前の部分に白い塊があります。神経細胞が死滅した痕です。前頭葉は、計算や思考など想像的な働きを担う中枢です。ウラジミルさんの知的障害の原因は、ここにあるのではないかと医師たちは考えています。脳のさらに深い部分にも、神経細胞が死滅した痕がありました。ウラジミルさんの疲労感や脱力感の原因は、これではないかと診断されました。

(医師)
「検査の結果、ご主人の脳に異常が発見されました。一連の症状がチェルノブイリ事故の後始まったことを考えれば、放射能の影響とみるべきでしょう。放射能が脳の中に入り込み、脳を破壊していったのです。簡単に治せるものではありません。あんな大きな病巣がありながら、大事に至らなかったのが不思議なくらいです。もっと拡大していたら、助からなかったでしょう。気を落とさないでください。」
(タチアナさん)
「大丈夫です。涙を見せたら、夫にショックを与えてしまいます。」

チェルノブイリの放射能が、十年もの間、ウラジミルさんの脳を少しずつ確実に破壊していたのです。妻のタチアナさんは、診断の結果を夫に告げず、残された身体の機能をできるだけ維持していく生活をしようと決意しました。

(映像:放射能汚染地域の地図)
最近、チェルノブイリ原発事故による人体への汚染について、またひとつ新しい事実が発見されました。汚染が5キュリー以下で、人体への影響が比較的少ないとされてきた黄色の地域に、赤の高濃度汚染地域に匹敵する人体汚染が起きていることがわかったのです。

チェルノブイリ原発の西、ベラルーシとウクライナの国境沿いに広がるポレーシア地方は、プリピャチ川沿いに開け、広大な森と豊かな水に恵まれた農村地帯です。ポレーシア地方にある人口千人足らずの村・ゼルジンスクに、事故後はじめて検診車がやってきました。汚染の高い地域から巡回してきたため、この村の人々は事故後十年目にしてようやく検診を受けることになったのです。
その結果、意外な事実が明らかになりました。ゼルジンスク村の人々の体内に蓄積された放射能の量が、極めて高かったのです。

(ゴメリ特別病院検診部:ナターシャ・ジノビッチ婦長)
「驚きましたよ。例外なく、みんな被爆量が高いのですから。ここは土地の汚染が低い地域のはずなのに、住民の被爆量は、最も汚染の高い地域と変わらないのです。どうしてこのような高い数値が出たのか、よくわかりません。」

なぜ、この村の人たちの体内に多くの放射能が蓄積されたのでしょうか。その原因をつきとめるため、ベラルーシ国立土壌研究所のグループが調査を続けています。その結果、原因解明の鍵は土にあるのではないかとみています。一般に、土に含まれる粘土分は、放射能を取り込んで外に逃がさない性質をもっています。ところが、この村の土には粘土分が少なく、ほとんどが粒子の粗い泥炭です。このため、放射能が植物に急速に吸収されやすいというのです。

(映像:ベラルーシ国立土壌研究所)
実際に、ゼルジンスク村の土の放射能を測定してみました。結果は、1068ベクレル。汚染はそれほど高くありません。しかし、牧草の放射能は、土の15倍、15544ベクレルにも及んでいます。この村では、放射能が土よりも牧草に大量に蓄積されていました。その結果、この村に降り注いだ放射能は、土から牧草へ、そして牧草から牛へ、さらにその牛が出す牛乳から人間へと、次々と濃縮されていったのです。ゼルジンスク村の人々は、汚染の高い地域と同じレベルの被爆を、この十年間受け続けていたのです。

調査の結果、この村と同じ性質の土は、ホレーシア地方全体に広がり、およそ一万平方キロ、チェルノブイリ原発事故によるすべての汚染地域の一割近くに達することがわかりました。ベラルーシ国立土壌研究所のグループは、人体への影響という視点から見た時、放射能汚染地図が大きく書きかえられることになると警告しています。

チェルノブイリ原発事故から十年。新しい放射能汚染の姿が見えはじめています。放射能が人体に何を引き起こすのか。その実態の解明は、まだ始まったばかりです。 <終>

Sunday, April 24, 2011

東電の塩素38測定値撤回に対するダルノキ-ベレス博士の所見と情報開示の要請

Dr. F. Dalnoki-Veress
Scroll down for English.

福島第一の1号機の溜まり水から検出された塩素38のの計測値を元にし、再臨界の可能性を議論したモントレー国際問題研究所不拡散研究センターの研究員、ダルノキ-ベレス(Ferenc Dalnoki-Veress 「ダルノキ=ベレス」、また「ベレス」の部分を「ヴェレス」と表記しているところもあります)博士の論文は3月31日に『アジア太平洋ジャーナル:ジャパンフォーカス』に掲載され、4月1日に当サイトでIEERエネルギー環境研究所のアージュン・マキジャーニ所長による解説文を紹介し、論文全文の翻訳を4月9日に発表しました。

しかし、東電は4月20日、この塩素38 (Cl-38)の測定値を撤回しました。それを受けて、ダルノキ-ベレスさんは以下のような所見と質問をまとめ、4月20日に『アジア太平洋ジャーナル:ジャパンフォーカス』誌に発表しましたので、ここに更新部分の日本語訳と原文を紹介します。専門的な内容と思いますが、これを見た方は、東電、保安院、原子力安全委員会等関係者、報道機関等に届くよう、協力をお願いします。

また、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんからコメントをもらっておりますのでダルノキ-ベレスさんの文章の下に掲載します。(Satoko Norimatsu, Peace Philosophy Centre, Twitter @PeacePhilosophy)



2011年4月20日 付重要更新

4月20日のプレスリリースで東京電力は、3月25日発表の、第一号機原子炉冷却に使用された海水のCl-38放射能濃度測定値 (1.6 MBq/mL) を撤回し、「検出限界未満」とした。この当初の測定値を元に、そのような高濃度は、不慮の過渡臨界の可能性を想起せずには説明できないと私たちは判断していた。東京電力がこの測定結果を撤回し、同プレスリリースに示されるように、分析プロトコル改善に着手したのは、喜ばしいことである。しかし、なぜ、不充分な類別記述のまま(同プレスリリースにおいて、Cl-38 の読みは1.6MBq から「検出限界未満」と変更され、変更理由は「主要ピークによる核種の同定及び放射能濃度の決定」とされる)誤りを撤回したのかについて、説明が願わしいところである。たとえば、Cl-38の主要ガンマ線は1.64 MeV および 2.16 MeV にある。これらがいかなる線と干渉して6桁下げることが必要とされたのだろうか。もしカウント値がCl-38 の為でなかったのなら、いかなる同位元素が 1.6 MBq/mL に匹敵するカウント値を持っていたのか。

4月4日の原子力安全・保安院 による批判以来、東京電力が取ってきた処置は歓迎されるが、私たちは更に厳しい同位元素測定プロトコルと適時の結果報告を促したい。さもなければ、東京電力の重要な測定について一般人の信頼が更に損なわれるのではないか。よって、以下の処置を東京電力が取ることを勧めたい。

1)(単一の数字だけでなく)全スペルトルデータを公表する。
2)試料採取日時を公表する。
3)試料測定の日時を、計数時間とデッドタイムを含めて公表する。
4)測定を同じ日の違う時刻に何度か測定を繰り返す。
5)関心の対象となる他の同位元素(たとえば東京電力が4月20日に撤回した Te-129など)も、検出限界未満であっても測定していただきたい。
6)もし純粋な誤りから撤回が必要になったのなら、どういう誤りであったのか、充分な説明を加えていただきたい。
7)もし第三者の独自の分析が為されているのであれば、東京電力の測定結果判断を検証したその分析者/研究所の名前を明示していただきたい。

東京電力/原子力安全・保安院及び日本政府は前途に多大な仕事を抱えており、測定結果に基づいて重要な諸決断がなされていくことと思われる。それゆえ、分析においても結果の報告においても、厳格なプロトコルに従うことが重要である。

F. ダルノキ=ベレス (Ferenc Dalnoki-Veress)

(翻訳 セルデン恭子)

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(小出裕章さんから4月23日メールで届いたコメント)
ご指摘の点はそのとおりです。

 私の推測では、Ge半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリのデータを、測定器メーカーの解析ソフトを使って自動的に解析してしまっているためだと思います。
 その結果を本当ならチェックしなおすのですが、それを怠ったためでしょう。
 そして、半減期37分のCl-38の場合、測定時点から、試料採取時点までの減衰補正をすると大きな値になってしまいます。
 たとえば、370分(約6時間)経っていたとすれば、測定時点の1000倍の値として評価しますし、採取から測定まで740分(約半日)経ってしまっていたとすれば、採取時点に減衰補正すると6桁分大きくなります。

 ダルノキ-ベレスさんのコメントどおり、生データが公表されれば、一気に解決します。                                  2011/4/23  小出 裕章
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ダルノキ-ベレスさんのコメントの英語原文。掲載誌のリンクはこちら

http://www.japanfocus.org/-Arjun-Makhijani/3509 

Important article update April 22, 2011

In its press release of April 20, TEPCO has retracted the Cl-38 radioactivity concentration measurement (1.6 MBq/mL) for the seawater used to cool reactor #1that it had issued on March 25, saying that it was "below minimum detectable density". Based on this original measurement, we had determined that the value was too high to be explained without invoking the possibility of inadvertent, transient criticalities. We are pleased that TEPCO has retracted this result and has set out to improve its analysis protocol as described in the same press release. But we would appreciate further explanation of why previous results were simply retracted with inadequate categorization and explanation of the errors, as in the TEPCO press release. (The Cl-38 reading was changed on April 20th from 1.6MBq to a value "below detection limit" with the following explanation: "Identification and determination of radioactivity density were conducted based on main peaks.") For example, the main gamma lines of Cl-38 are at 1.64 MeV and 2.16 MeV. What lines did these interfere with that required a downscaling of 6 orders of magnitude? If the count rate could not be attributed to Cl-38 what isotope had a count rate equivalent to 1.6 MBq/mL?

While appreciating the steps that TEPCO has taken since the April 4th NISA reprimand, we recommend further rigor in isotopic measurement protocol and timely reporting of results. Otherwise, public trust in the important measurements that TEPCO is making will further erode. We therefore recommend that TEPCO take the following steps:

1) Release full spectra data (not just a number)
2) Release the time/date sample was taken
3) Release the time/date sample was measured including counting time and dead time
4) Repeat measurements at different times of the day
5) Please measure other isotopes of interest (such as Te-129, which was retracted by TEPCO on April 20th as well), even if they are below the detection limit
6) If retractions are necessary due to an honest mistake, please provide full explanation of the mistake
7) If third-party, independent analyses are done, please state the name of the analyst/lab that has cross-checked TEPCO's interpretation of the results

TEPCO/NISA and the Japanese government have a monumental task ahead of them and important decisions will be based on measurement results. Therefore, it is important that rigorous protocol be followed both in analysis and in communicating the results.

F. Dalnoki-Veress

Saturday, April 23, 2011

「子どもに対して年間20ミリシーベルト」撤回を求める緊急署名

(4月26日更新。署名の最終締め切りが4月30日23時に延長したとあります。また共同通信が日弁連の声明を取りあげました。下方に記事を貼り付けます。)

 署名フォームはここです。
福島民報より。「文部科学省が示した基準値について
担当者に質問する保護者=21日午後0時10分ごろ、福島テルサ」




国は一般人の年間被ばく限度を1ミリシーベルトとしているにも関わらず、福島の学校や幼稚園の子どもたちの被曝の基準を年間20ミリシーベルトと、一気に20倍に増やすという方針が4月10日に報道され、4月15日、ピースボートの川崎さんとの意見交換を公開しました。内部被曝も考慮せず、子どもであるということも考慮しない人命軽視の政策である、と反対の姿勢は変わりません。

文科省はその後4月19日に正式にこのような文書を出しました。

福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について
児童生徒等の受ける線量を考慮する上で、16時間の屋内(木造)、8時間の屋外活動の生活パターンを想定すると、20mSv/年に到達する空間線量率は、屋外3.8μSv/時間、屋内木造1.52μSv/時間である。 (上記文書より)
これについては、「まるで年間20ミリにするにはどうすればいいのかというような目標数値のようですね」というコメントも来ており、確かにこじつけのような印象を持ちます。

年間20ミリシーベルトを正当化するために、上記文科省の文書ではこう言います。
国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication109(緊急時被ばくの状況における公衆の防護のための助言)によれば、事故継続等の緊急時の状況における基準である20~100mSv/年を適用する地域と、事故収束後の基準である1~20mSv/年を適用する地域の併存を認めている。また、ICRPは、2007年勧告を踏まえ、本年3月21日に改めて「今回のような非常事態が収束した後の一般公衆における参考レベル(※1)として、1~20mSv/年の範囲で考えることも可能」とする内容の声明を出している。 
ICRP の声明が福島原発事故の後に出ていることも、何か後付けの理論のように見えます。いずれにせよ日本政府が日本の人を守るために設定してきた1ミリシーベルトの基準を20倍にし、それを子どもにいきなり適用するというのは納得が行きません。

また、文科省は4月20日教育者向けに「放射能を正しく理解するために」、保護者向けに「放射線で気をつけたいこと」という資料を発表しました。これを一通り読むと、放射線そのものよりも、放射線について心配をすることが心身に一番の害である(従って放射線の心配をしないことが心身に一番いい)というような語調で書かれていることがわかります。内容にも数々の問題がありますが、ここでは一例だけ指摘します。例えば、これ以上の被曝は安全であるとうい「しきい値論」を支持した上で、「しかし、『発がん』が起こる確率は、低い量の被ばくであっても被ばくした放射線の量に応じて増加すると考えて、必要のない放射線をできるだけ浴びないようにするという考え方は、大切です。」と、「しきい値」がないことを認めるような矛盾した注意をしています。

緊急署名です。

文部科学省の「子どもに対して20ミリシーベルト」の撤回を求める要請への緊急署名

FoE(地球の友) Japan、グリーンピース・ジャパンなど6団体が、通知撤回を求める緊急要請への団体と個人の連名を呼びかけています。

署名フォームはここです。 締め切りは4月25日午後11時。

日本弁護士連合会会長声明「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」、『福島民報』の関連報道も後に付けました。) 

~~~~~~~~【緊急声明と要請】~~~~~~~~

美浜の会、フクロウの会、グリーン・アクション、FoE Japan、グリーンピース・ジャパン、原子力資料情報室の6団体は、下記のような緊急声明および要請を政府に対して提出します。連名可能な団体・個人は、4月25日(月)23時(一次締め切り)までに、下記よりご連絡ください。

署名フォームはここです。

http://blog.canpan.info/foejapan/daily/201104/23


子どもに「年20ミリシーベルト」を強要する日本政府の非人道的な決定に抗議し、撤回を要求する

4月19日、文部科学省は、学校等の校舎・校庭等の利用判断における放射線量の目安として、年20ミリシーベルトという基準を、福島県教育委員会や関係機関に通知した。この年20ミリシーベルトは、屋外で3.8マイクロシーベルト/時に相当すると政府は示している。

3.8マイクロシーベルト/時は、労働基準法で18歳未満の作業を禁止している「放射線管理区域」(0.6マイクロシーベルト/時以上)の約6倍に相当する線量を子どもに強要する、きわめて非人道的な決定であり、私たちは強くこれに抗議する。

年20ミリシーベルトは、原発労働者が白血病を発症し労働認定を受けている線量に匹敵する。また、ドイツの原発労働者に適用される最大線量に相当する。

さらにこの基準は、大人よりはるかに高い子どもの感受性を考慮にいれておらず、また、内部被曝を考慮していない。

現在、福島県によって県内の小・中学校等において実施された放射線モニタリングによれば、「放射線管理区域」(0.6マイクロシーベルト/時以上)に相当する学校が75%以上存在する。さらに「個別被ばく管理区域」(2.3マイクロシーベルト/時以上)に相当する学校が約20%も存在し、きわめて危険な状況にある。

今回、日本政府が示した数値は、この危険な状況を子どもに強要するとともに、子どもの被曝量を
おさえようという学校側の自主的な防護措置を妨げることにもなる。

文科省は、20ミリシーベルトは、国際放射線防護委員会(ICRP)勧告Pub.109およびICRP3月21日付声明の「非常事態収束後」の基準、参考レベルの1-20ミリシーベルトに基づくとしているが、その上限を採用することとなる。

21日現在、日本政府からは、本基準の決定プロセスに関しては、何一つ具体的な情報が開示されていない。また、子どもの感受性や内部被曝が考慮されなかった理由も説明されていない。文科省、原子力安全委員会において、どのような協議が行われたのかは不明であり、極めてあいまいな状況にある(注)。

私たちは、日本政府に対して、下記を要求する。

子どもに対する「年20ミリシーベルト」という基準を撤回すること

子どもに対する「20ミリシーベルト」という基準で安全とした専門家の氏名を公表すること

(注)4月21日の政府交渉で、原子力安全委員会は正式な会議を開かずに、子どもに年20ミリシーベルトを適用することを「差支えなし」としたことが明らかになった。また、4月22日、5人の原子力安全委員の意見とりまとめについて議事録は無かったと、福島瑞穂議員事務所に回答している。

(参考)
4月21日付ドイツシュピーゲル誌の20ミリシーベルト設定に関する記事(「文部科学省、子どもたちに対してドイツの原発労働者と同様の被爆限度基準を設定」)より、専門家のコメント

エドムント・レンクフェルダー(オットー・ハーグ放射線研究所)

「明らかにがん発症の確率が高まる。基準設定により政府は法的には責任を逃れるが、道徳的には全くそうではない。」

※※参考情報:4月21日、文科省・原子力安全委員会との交渉報告(FoEブログ) http://blog.canpan.info/foejapan/daily/2011041

署名フォームはここです。

問合せ先:
国際環境NGO FoE Japan 担当:渡辺・満田(みつた)
E-mail:finance@foejapan.org 
〒171-0014 東京都豊島区池袋3-30-8 みらい館大明1F
tel:03-6907-7217(平日のみ) fax:03-6907-7219

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以下、参考資料。

~~~~~~ 日弁連会長声明 ~~~~~~

http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/110422_2.html 

「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」に関する会長声明

4月19日、政府は「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」を発表し、これを踏まえて、文部科学省は、福島県教育委員会等に同名の通知を発出した。これによると「児童生徒等が学校等に通える地域においては、非常事態収束後の参考レベルの1~20mSv/年を学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安と」するとされており、従前の一般公衆の被ばく基準量(年間1mSv)を最大20倍まで許容するというものとなっている。その根拠について、文部科学省は「安全と学業継続という社会的便益の両立を考えて判断した」と説明している。

しかしながら、この考え方には以下に述べるような問題点がある。

第1に、低線量被ばくであっても将来病気を発症する可能性があることから、放射線被ばくはできるだけ避けるべきであることは当然のことである。とりわけ、政府が根拠とする国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication109(緊急時被ばくの状況における公衆の防護のための助言)は成人から子どもまでを含んだ被ばく線量を前提としているが、多くの研究者により成人よりも子どもの方が放射線の影響を受けやすいとの報告がなされていることや放射線の長期的(確率的)影響をより大きく受けるのが子どもであることにかんがみると、子どもが被ばくすることはできる限り避けるべきである。

第2に、文部科学省は、電離放射線障害防止規則3条1項1号において、「外部放射線による実効線量と空気中の放射性物質による実効線量との合計が3月間につき1.3 ミリシーベルトを超えるおそれのある区域」を管理区域とし、同条3項で必要のある者以外の者の管理区域への立ち入りを禁じている。3月あたり1.3mSvは1年当たり5.2mSvであり、今回の基準は、これをはるかに超える被ばくを許容することを意味する。しかも、同規則が前提にしているのは事業において放射線を利用する場合であって、ある程度の被ばく管理が可能な場面を想定しているところ、現在のような災害時においては天候条件等によって予期しない被ばくの可能性があることを十分に考慮しなければならない。

第3に、そもそも、従前の基準(公衆については年間1mSv)は、様々な社会的・経済的要因を勘案して、まさに「安全」と「社会的便益の両立を考えて判断」されていたものである。他の場所で教育を受けることが可能であるのに「汚染された学校で教育を受ける便益」と被ばくの危険を衡量することは適切ではない。この基準が、事故時にあたって、このように緩められることは、基準の策定の趣旨に照らして国民の安全を軽視するものであると言わざるを得ない。

第4に、この基準によれば、学校の校庭で体育など屋外活動をしたり、砂場で遊んだりすることも禁止されたり大きく制限されたりすることになる。しかしながら、そのような制限を受ける学校における教育は、そもそも、子どもたちの教育環境として適切なものといえるか根本的な疑問がある。

以上にかんがみ、当連合会は、文部科学省に対し、以下の対策を求める。

1 かかる通知を速やかに撤回し、福島県内の教育現場において速やかに複数の専門的機関による適切なモニタリング及び速やかな結果の開示を行うこと。

2 子どもについてはより低い基準値を定め、基準値を超える放射線量が検知された学校について、汚染された土壌の除去、除染、客土などを早期に行うこと、あるいは速やかに基準値以下の地域の学校における教育を受けられるようにすること。

3 基準値を超える放射線量が検知された学校の子どもたちが他地域において教育を受けざるを得なくなった際には、可能な限り親やコミュニティと切り離されないように配慮し、近隣の学校への受け入れ、スクールバス等による通学手段の確保、仮設校舎の建設などの対策を講じること。

4 やむを得ず親やコミュニティと離れて暮らさざるを得ない子どもについては、受け入れ場所の確保はもちろんのこと、被災によるショックと親元を離れて暮らす不安等を受けとめるだけの体制や人材の確保を行うこと。

5 他の地域で子どもたちがいわれなき差別を受けず、適切な教育を受けることができる体制を整備すること。

2011年(平成23年)4月22日

日本弁護士連合会

会長 宇都宮 健児

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以下、福島民報の4月22日報道

保護者から不安の声相次ぐ 屋外活動制限の13校・園 説明会福島でスタート

 福島県教委と文部科学省は21日、放射線量の暫定基準値(毎時3・8マイクロシーベルト)を上回り屋外活動を制限している13校・園の保護者らを対象にした説明会をスタートした。初日は福島市の福島テルサで午前、午後の2回開かれ、保護者から不安の声が相次いだ。
 「校庭の土を全部入れ替えて」「指針を出す時期が遅すぎる」。保護者ら約400人が出席した同日午前の説明会は30分予定の質疑応答の時間が2時間半を越えた。福島三小に2人の息子を通わせる主婦(37)は「安心できる材料はなかった。安全な地域に子どもを通わせることも考える」と憤った。
 文科省の担当者と県放射線健康リスク管理アドバイザーの神谷研二氏らが基準値の根拠や対応を解説した。
 22日は午前10時から郡山市の薫小、午後2時半から伊達市の保原市民センターでそれぞれ開く。
 鈴木寛文部科学副大臣は21日の記者会見で、屋外活動制限の対象となった小中学校など13校・園を含む県内の52校・園で、児童生徒らの被ばく放射線量を把握するため、簡易式の携帯型線量計約120個を県教育委員会に送付したと明らかにした。
 説明会の席上、県教委は放射線量の再調査をした52校・園すべてに、近く携帯型線量計を配置する方針を示した。

4月27日 共同通信

http://www.47news.jp/CN/201104/CN2011042701000094.html

日弁連、学校の線量見直し求める 会長「安全性に問題」

 福島第1原発事故で、福島県の小中学校や幼稚園での屋外活動を制限する文部科学省の放射線量の目安について、日本弁護士連合会は27日までに、法令で定める放射線管理区域の基準より甘く、安全性に問題があるとして見直しを求める声明を発表した。

 宇都宮健児会長は声明で「(放射線管理区域を)はるかに超える被ばくを許容することを意味する」と批判した。

 文科省は19日、学校や幼稚園で観測される放射線量が屋外で毎時3・8マイクロシーベルト以上の場合は屋外活動を制限するよう福島県に通知。それ未満の場合は平常通り活動できるとした。年間の積算被ばく放射線量が20ミリシーベルトになるかどうかを目安とした。

 法令では、放射線作業をする施設では3カ月の積算で1・3ミリシーベルトを超える恐れがある範囲を放射線管理区域と設定する。年間換算では5・2ミリシーベルトで、文科省が目安とした値はこの4倍近い。

 声明では屋外活動制限についても、そのような制限を受ける学校は教育環境として適切ではないとして、より低い基準値を定め、土壌の除去なども進めるよう求めた。

 労働基準法は放射線管理区域での18歳未満の就労も禁じている。文科省は、安全性に十分配慮したと説明、「放射線管理区域の基準は、平常時に作業員らを保護する狙いがある。今回の基準は、緊急時に安全と生活を両立させる目的で設定しており、単純比較できない」としている。

Friday, April 22, 2011

大江健三郎「歴史は繰り返す」(『ニューヨーカー』誌寄稿)和訳紹介 Oe Kenzaburo in the New Yorker: History Repeats

3月25日を振り返っている。ひと月も経っていないのに遠い昔のようだ。こう書いた

「福島」は、「広島」、「長崎」に続き、日本の3つめの大規模核被害地となった。違うといえば、今回は自らが落としたものであるということだ・・・

平和憲法を掲げ、非核三原則をとなえて歩んできた66年の結末。今までやってきたことは一体何だったんだという根本的な問いに面している。

長い長い期間をかけて、被害者の人たちに、子どもたちに、孫たちに、海に、山に、畑に、償っていかなければいけない。
この日、『ニューヨーカー』誌の大江健三郎さんの寄稿文が目に入った。3月28日付の文だが25日の時点でもうネットに出ていた。「原子炉の建設はこのような(原爆の)人命軽視の過ちを繰り返すことであり、広島の犠牲者への最大の裏切りである。」この一文に胸をえぐられたような想いになり、感極まった。この文で尊敬する故加藤周一さんに触れていたこともあった。震災・原発事故以降、加藤さんなら今の状況をどう見るだろうか、どう発言するだろうかと考えながら過ごしてきた。また、『ニューヨーカー』は、1946年、アメリカ人に広島のキノコ雲の下で何が起こったかを初めて伝えた歴史的名著であるジョン・ハーシーの『ヒロシマ』が一挙掲載された雑誌でもある。大江健三郎さんが65年後、「広島の犠牲者への最大の裏切り」を語る記事が掲載されたのが、奇しくも同じ雑誌であったということにまたやるせない想いを抱いた。アメリカが伝えた「ヒロシマ」から、日本が自ら招いた核の惨禍「フクシマ」へ。大江さんは、もしかしたらそれを意識して『ニューヨーカー』誌に寄稿したのかもしれないと思った。

今日、一部を翻訳して紹介したままになっていた大江さんの文の全訳が届いた。第五福竜丸の被害者の一人、大石又七さんから送られたものを友人が送ってくれた。大江さんの文に大石さんのことが書いてあるので、NHK国際放送の人が大石さんのために訳したということだ。以下紹介し、英語の原文もその下に紹介する。

「歴史は繰り返す」 大江健三郎

偶然にも地震の前日、朝日新聞の朝刊に数日後に掲載される予定の原稿を書いていました。一九五四年のビキニ環礁の水爆実験で被爆した、私と同世代の船員についての記事です。彼の境遇を初めて耳にしたのは、十九歳の時。その後も彼は、「抑止力」神話と抑止論者の欺瞞をあばくことに人生を捧げています。思えば、大震災の前日にあの船員のことを思い出していたのは、ある種の悲しい予兆だったのでしょうか。彼はまた、原子力発電所とその危険性にも反対して闘っておられるのです。私は長いこと、日本の近代の歴史を、広島や長崎の原爆で亡くなった人、ビキニの水爆実験で被爆した人、そして原発事故の被害にあった人という三つのグループの視点から見る必要があると考えてきました。この人たちの境遇を通して日本の歴史を見つめると、悲劇は明確になります。そして今日、原子力発電所の危険は現実のものとなりました。刻一刻と状況が変わる中、事態の波及を抑えるために努力している作業員に対して敬意を表しますが、この事故がどのような形で収束を迎えようともその深刻さはあまりにも明白です。日本の歴史は新たな転換点を迎えています。いま一度、私たちは、原子力の被害にあい、苦難を生き抜く勇気を示してきた人たちの視点で、ものごとを見つめる必要があります。今回の震災から得られる教訓は、これを生き抜いた人たちが過ちを繰り返さないと決意するかどうかにかかっています。

この震災は、日本の地震に対する脆弱性と原子力の危険性という二つの事象を劇的な形で結びつけました。前者は、この国が太古から向き合ってきた自然災害の現実です。後者は、地震や津波がもたらす被害を超える可能性をはらんだ人災です。日本はいったい、広島の悲劇から何を学んだのでしょうか。二〇〇八年に亡くなった、現代の日本の偉大な思想家の一人である加藤周一氏は、核兵器と原子力発電所について話をした時、千年前に清少納言が書いた『枕草子』の一節を引用して、「遠くて近きもの」だとしました。原子力災害は遠く、非現実的な仮説に思えるかもしれませんが、その可能性は常にとても身近なところにあるのです。日本人は、原子力を工業生産性に換算して考えるべきではありません。広島の悲劇を経済成長の見地から考えるべきではないのです。地震や津波などの自然災害と同じように、広島の経験は記憶に深く刻まれているはずです。人間が生み出した悲劇だからこそ、自然災害よりも劇的な大惨事なのです。原子力発電所を建設し、人の命を軽視するという過ちを繰り返すことは、広島の犠牲者の記憶に対する、最悪の裏切り行為です。

日本が敗戦を迎えた当時、私は十歳でした。翌年、新憲法が公布されました。その後何年にもわたって、軍事力の放棄を含む平和主義を明記した我が国の憲法や、その後の「核兵器を持たず、作らず、持ち込まさず」という非核三原則が、戦後の日本の基本理念を正確に表現しているのか自分に問い続けました。あいにく、日本は徐々に軍事力を再配備し、六十年代の日米の密約によって米国が日本列島に核兵器を持ち込むことが可能となり、それによって非核三原則は無意味となってしまいました。しかし、戦後の日本の人道的な理想は、完全に忘れ去られたわけではありません。死者が私たちを見守り、こうした理念を尊重させているのです。そして、その人たちの記憶があることによって、政治的現実主義の名のもとに核兵器の破壊力を軽んじることができません。私たちは矛盾を抱えています。日本が米国の核の傘に守られた平和主義国家であるというその矛盾こそが、現代の日本の曖昧な立場を生み出しています。福島の原発事故がきっかけとなり、いま再び日本人が広島や長崎の犠牲者とのつながりを復活させ、原子力の危険性を認識し、核保有国が提唱する抑止力の有効性という幻想を終わらせることを願います。

一般的に大人であると見なされる年齢の時、『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』という小説を書きました。そして人生の終盤に差しかかった今、『後期の仕事(レイター・ワーク)』を執筆しています。今の狂気を何とか生き延びることができれば、その小説の出だしはダンテの『神曲』地獄篇の最後の一行からはじまるでしょう。--かくてこの處をいでぬ、再び諸々の星をみんとて。

The New Yorker

History Repeats

Kenzaburo Oe

March 28, 2011 .

By chance, the day before the earthquake, I wrote an article, which was published a few days later, in the morning edition of the Asahi Shimbun. The article was about a fisherman of my generation who had been exposed to radiation in 1954, during the hydrogen-bomb testing at Bikini Atoll. I first heard about him when I was nineteen. Later, he devoted his life to denouncing the myth of nuclear deterrence and the arrogance of those who advocated it. Was it a kind of sombre foreboding that led me to evoke that fisherman on the eve of the catastrophe? He has also fought against nuclear power plants and the risk that they pose. I have long contemplated the idea of looking at recent Japanese history through the prism of three groups of people: those who died in the bombings of Hiroshima and Nagasaki, those who were exposed to the Bikini tests, and the victims of accidents at nuclear facilities. If you consider Japanese history through these stories, the tragedy is self-evident. Today, we can confirm that the risk of nuclear reactors has become a reality. However this unfolding disaster ends—and with all the respect I feel for the human effort deployed to contain it—its significance is not the least bit ambiguous: Japanese history has entered a new phase, and once again we must look at things through the eyes of the victims of nuclear power, of the men and the women who have proved their courage through suffering. The lesson that we learn from the current disaster will depend on whether those who survive it resolve not to repeat their mistakes.

This disaster unites, in a dramatic way, two phenomena: Japan’s vulnerability to earthquakes and the risk presented by nuclear energy. The first is a reality that this country has had to face since the dawn of time. The second, which may turn out to be even more catastrophic than the earthquake and the tsunami, is the work of man. What did Japan learn from the tragedy of Hiroshima? One of the great figures of contemporary Japanese thought, Shuichi Kato, who died in 2008, speaking of atomic bombs and nuclear reactors, recalled a line from “The Pillow Book,” written a thousand years ago by a woman, Sei Shonagon, in which the author evokes “something that seems very far away but is, in fact, very close.” Nuclear disaster seems a distant hypothesis, improbable; the prospect of it is, however, always with us. The Japanese should not be thinking of nuclear energy in terms of industrial productivity; they should not draw from the tragedy of Hiroshima a “recipe” for growth. Like earthquakes, tsunamis, and other natural calamities, the experience of Hiroshima should be etched into human memory: it was even more dramatic a catastrophe than those natural disasters precisely because it was man-made. To repeat the error by exhibiting, through the construction of nuclear reactors, the same disrespect for human life is the worst possible betrayal of the memory of Hiroshima’s victims.

I was ten years old when Japan was defeated. The following year, the new Constitution was proclaimed. For years afterward, I kept asking myself whether the pacifism written into our Constitution, which included the renunciation of the use of force, and, later, the Three Non-Nuclear Principles (don’t possess, manufacture, or introduce into Japanese territory nuclear weapons) were an accurate representation of the fundamental ideals of postwar Japan. As it happens, Japan has progressively reconstituted its military force, and secret accords made in the nineteen-sixties allowed the United States to introduce nuclear weapons into the archipelago, thereby rendering those three official principles meaningless. The ideals of postwar humanity, however, have not been entirely forgotten. The dead, watching over us, oblige us to respect those ideals, and their memory prevents us from minimizing the pernicious nature of nuclear weaponry in the name of political realism. We are opposed. Therein lies the ambiguity of contemporary Japan: it is a pacifist nation sheltering under the American nuclear umbrella. One hopes that the accident at the Fukushima facility will allow the Japanese to reconnect with the victims of Hiroshima and Nagasaki, to recognize the danger of nuclear power, and to put an end to the illusion of the efficacy of deterrence that is advocated by nuclear powers.

When I was at an age that is commonly considered mature, I wrote a novel called “Teach Us to Outgrow Our Madness.” Now, in the final stage of life, I am writing a “last novel.” If I manage to outgrow this current madness, the book that I write will open with the last line of Dante’s Inferno: “And then we came out to see once more the stars.”

Wednesday, April 20, 2011

沢田昭二『放射線による内部被曝』-福島原発事故に関連して-

長崎で日米加の学生に講演する沢田昭二さん
(2010年8月8日)
素粒子物理学者であり、広島原爆の被曝者でもある沢田昭二さん(名古屋大学名誉教授)には、昨年の日米学生の広島長崎の旅でお会いし、長崎で沢田さんの講義の通訳を務める機会に恵まれました。政府や大手メディアが放射線被曝について語るとき無視・軽視しがちな「内部被曝」の危険性とその重要性はいくら強調しても強調し過ぎることはありません。このサイトでは「内部被ばくについて」というコーナーも設けています。今回は『日本の科学者』6月号に掲載予定の沢田さんの新論文を掲載いたします。(特に大事だと思うところを、ブログ運営者の判断で青字で表示しました。)


放射線による内部被曝——福島原発事故に関連して——



沢田昭二

はじめに
 3月11日の巨大地震と大津波によって東京電力福島第一原発はスリーマイル島原発事故を上回る大事故を引き起こした.いまなお安定的な冷却が実現できないばかりか,燃料棒の露出による水素爆発の危険性は継続している.放射能が強いためその放出箇所の特定もできていない.電源確保による安定的冷却が鍵であるが,そのための作業は難航し,作業員の累積被曝はかなりの線量に達している.
 大気と海に放出された放射性物質が拡がり,原発から20 km圏内の住民は見通しもない長期的避難を余儀なくされ,福島県と北関東の農作物や魚の汚染による出荷禁止や摂取禁止措置なども深刻な影響をもたらしている.
 今回の放射線被曝は,広島・長崎原爆の原子雲から降下した放射性降下物による被曝と共通性がある.日本政府は放射性降下物による被曝を無視できるとしてきた.これに対し,原爆被爆者は2003年から,国に対して全国的な集団訴訟に取り組み,原爆による放射性降下物の影響を不当に無視した岡山地裁判決を唯一の例外として,現在までに地裁と高裁で27連勝している1).
 この集団訴訟では,放射性降下物による被曝影響無視の非科学的被爆者行政に対し被爆者の間に起こった事実に基づいた批判が行われ,その結果,今回の事故による被曝について,政府も内部被曝に触れるようになったものの,放射線影響の研究者を含めて,内部被曝に関する理解は不十分なままである.
 本稿では,こうした広島・長崎原爆の被曝実態に基づいた内部被曝に重点を置いて原発事故による放射線被曝について考察する.

1 放射線被曝
 放射線にはアルファ線、ベータ線,ガンマ線,X線,中性子線などさまざまなものがある.ベータ線は電子,アルファ線はヘリウムの原子核で,放射性原子核から数千電子ボルトないし数百万電子ボルトのエネルギーを持って放出された量子(量子化された波の塊)である.ここで電子ボルトはミクロの世界のエネルギーの単位で,eVと記し,電子と同じ電荷を持つ粒子が1ボルトの電位差の電極間で加速されて得るエネルギーが 1eVである.X線やガンマ線は電磁波で,光子と呼ばれる量子として放射性原子核から放出される.X線やガンマ線の光子は,通常の可視光線や電波の光子よりもはるかに波長が短く振動数が大きい.光子の持つエネルギーは振動数に比例するのでX線の光子はおよそ1000 eV以上,ガンマ線の光子はおよそ10万 eV以上のエネルギーを持って原子核から放出される.
 アルファ線あるいはベータ線は電荷を持っているので,体内を通過する時,電磁相互作用によって光子を放出し,この光子が,水,タンパク質,DNAなど,生体分子内で原子を結合する役割を担っている電子に吸収されたり,散乱されたりして,電子にエネルギーを渡す.エネルギーを受け取った電子は分子から離脱し,その結果,水や生体分子が壊される.これが放射線による電離作用で,すべての放射線影響の始まりである
 電離作用に必要なエネルギーはせいぜい10eVであるのに対し,放射線を構成する量子は数千eVないし数百万eVのエネルギーを持つので,一個の放射線の量子は,生体組織内で数百ないし数十万カ所の電離作用を引き起こす.可視光線や電波はX線やガンマ線と同じ電磁波であるが,その光子は1eVに満たないエネルギーしか持たないので電離作用をせず,非電離性放射線と呼ばれる.
 放射線は電離作用によって人体に障害を引き起こすので,物理学的には放射線が人体にどれくらいエネルギーを与えたかで被曝線量を表し,放射線から人体組織1kg当たり1ジュールのエネルギーを吸収したとき吸収線量1グレイ(Gy, Gray)という.
 しかし,放射線の種類によって人体への障害の程度が異なるので,X線に比べて何倍の影響を与えるかを考慮した生物学的効果比(RBE)をグレイに乗じた線



図1 放射線の電離作用.ガンマ線が電離作用によって染色体DNAの2重らせんを直接切断する場合と,細胞内の水分子H2Oを電離して水素イオンと水酸化物イオンをつくり,水酸化物イオンがDNAと化学反応して,間接的に切断する場合を示した.

量当量としてシーベルト(Sv, Sievert)が用いられる.国際放射線防護委員会(ICRP)はガンマ線とベータ線は外部被曝ではX線と同程度の影響であるとして,RBEを1とし,アルファ線のRBEを20としている.今回の福島原発事故による被曝は、1シーベルトの100分の1以下の被曝が問題になっているので1シーベルトの1000分の1のミリシーベルト(mSv),あるいは100万分の1のマイクロシーベルト(μSv)の単位が用いられている.
 1シーベルトのガンマ線を体重 50 kgの人が全身被曝すると,50 ジュール= 3.12×1020eVのエネルギーを受けたことになり,これは全身の約60兆個の細胞1個当たり平均して52万カ所以上の電離作用を受けることになる.電離作用を受けても,ほとんどの生体分子は,再びもとの状態に修復される.ところが,きわめて小さい確率で誤った修復が行われる.特に電離作用がDNA分子の2重らせんの接近した箇所で起こると,切断箇所が誤って接合される確率が大きくなり,もとのDNA分子とは違うDNAになって染色体異常をつくり出す.染色体異常で次の細胞分裂が不可能になると,細胞は自死し,多数の細胞が自死すると急性放射線症を引き起こす.染色体異常を持つ細胞が細胞分裂できても,染色体異常を持つ細胞を再生して癌細胞につながる可能性が生まれる.
 放射線の強さについては,放射性原子核が1秒間に何個崩壊して放射線量子を放出したかの回数を表すベクレル(Bq)も用いられ,1 kgの物質当たり,あるいは地面の 1 m2当たりのベクレル数が報告されている.放射性核種ごとに典型的な被曝に対してシーベルトへの換算がICRPによって提示されている.しかし,内部被曝には当てはまらない.

2 急性放射線症と晩発性障害
 放射線被曝による障害は,発症時期によって急性放射線症と晩発性障害とに大別される.体外から放射線を浴びる外部被曝による急性放射線症は一般には1週間から2週間後に発症し,内部被曝の場合には,取り込んだ放射性物質が放出する放射線を浴び続けるので一般的にはさらに遅れて発症する.一方,癌などの晩発性障害は被曝後数年から10年以上を経て発症する.このように放射線影響は一般に被曝からかなり遅れて発症する.このことから「“直ちに”健康に影響が出るレベルではない」と影響がないかのように説明するのはごまかしである.
 放射線被曝による急性症状の発症も晩発性障害の発症も個人差が大きい.これを示すため,典型的な急性放射線症である脱毛の発症率を原爆傷害調査委員会(ABCC,現在の放射線影響研究所)が1950年前後に寿命調査(Life-Span-Study; LSS)集団の広島被爆者について調査した結果を図2の■印で示す2).
 図3に○印を付した曲線で表された被曝線量と脱毛発症率の関係3)を用いて,図2の■印の振る舞い全体を再現するように初期放射線と呼ばれる原爆爆発1分以内に放出されたガンマ線と中性子線による被曝線量と,放射性降下物による被曝線量を求めた.その結果が図3の被曝線量で,図2の■印を貫く太い曲線のようにきわめて良い精度で脱毛発症率を再現している.
 図3のように,1シーベルトの被曝で5%の人が脱毛を発症するのに対し,60日以内に50%の人が死亡する半致死線量4シーベルトの被曝では96%の人が発症するが,6%近くの人はまだ脱毛を発症しない.一般に,急性放射線症は,個人差はあるものの,その個人に特有の線量の被曝をすれば必ず発症するので「確定的」影響と呼ばれる.また,被曝線量が大きいほど急性症状は重篤になる.


      
   図2 広島原爆による脱毛,紫斑および下痢の爆心地からの距離による発症率.
爆心地から 0.75 kmにおける脱毛と紫斑の発症率は100%である.

3 外部被曝と内部被曝
 放射線が生体組織を通過する時、X線とガンマ線はまばらな電離作用をするのでエネルギーを失うまでに相当の距離を通過するため透過力が強い.これに対し,アルファ線はきわめて密度の高い電離作用をして,数百万eVのエネルギーを数十μm 走るうちに全部放出するので,透過力はきわめて弱い.ベータ線はこの中間で,生体内では通常数 cm走ってエネルギーを失って止まる.電離作用を行う密度が大きいと,分子の接近した箇所の切断確率が大きくなり,電離作用による障害が大きくなる.こうしたことを考慮すると,ICRPが,内部被曝に対してベータ線のRBEを1とすることには疑問がある.
 この問題を,具体的に於保源作医師4)が調査した広島の被爆者の爆心地からの距離による急性症状の脱毛,皮下出血による紫斑,下痢の発症率について見よう.図2に示したように脱毛の□印と紫斑の●印は爆心地からの距離とともにほぼ同じような変化をしている.しかし,△印の下痢の発症率は近距離では脱毛や紫斑に比べて小さく,遠距離では数倍大きい.
 近距離では初期放射線のガンマ線や中性子線による瞬間的な外部被曝が主要な被曝影響を与える.外部被曝では透過力の強いガンマ線が腸壁まで到達できる.しかし,到達したガンマ線はまばらな電離作用を行って薄い腸壁を通り抜けてしまうので,高線量のガンマ線でなければ下痢を発症させない.
 一方,遠距離では放射性降下物の放射性微粒子を体内に摂取したことによる内部被曝が主要になる.呼吸や飲食で取込んだベータ線を放出する放射性微粒子が腸壁に到達すると,ベータ線は密度の高い電離作用を行うので腸壁に損傷を与えて下痢を発症させる.このことを考慮して,図3に示したように,被曝線量と下痢の発症率の関係を,初期放射線のガンマ線による外部被曝の場合には脱毛と紫斑の場合より高い被曝線量方向にずれた曲線によって与え,放射性降下物による内部被曝の場合には脱毛と紫斑の場合より低い被曝線量方向にずれた曲線を用いると,図4に示したようにほとんど同じ被曝線量によって,脱毛,紫斑,および下痢の3種の急性症状の発症率を図2の細い曲線で示したように同時に再現できる.
 このように障害のしくみが外部被曝と異なる内部被曝をX線やCTスキャンによる外部被曝と比較することは適当でない.
 今回の原発事故による拡散した放射性物質は酸化物などの微粒子として飛散していると考えられるが,1μm 以下の大きさであれば,呼吸で鼻毛などに遮られないで肺胞を経て血液に達して全身を廻る.その際,放射性微粒子が水溶性あるいは油溶性であれば原子あるいは分子レベルに分解し,元素の種類によって


     
   図3 被曝線量と脱毛,紫斑,下痢の発症率の関係.脱毛と紫斑については,50%
   の人が発症する半発症線量を2.75シーベルト(○印),下痢については初期放射
線の外部被曝に対して3.03 シーベルト(▲印), 放射性降下物の内部被曝に対
して 1.98シーベルト(△印)の正規分布を用いた.


     
     図4 急性放射線症発症率による広島原爆の推定被曝線量

特定臓器に蓄積し,集中した被曝を与える.
 水溶性・油溶性でない場合には微粒子のまま, あるいは幾つかの微粒子に分解して循環し,体内の特定箇所に付着する.1μm の微粒子でも,原理的には数百億個の放射性原子を含むこともありうるので,微粒子が沈着した周辺の細胞は大量の被曝を継続して死滅する.
 特に微粒子が多数のウランやプルトニウム原子核を含む場合にはきわめて高密度の電離作用をするアルファ線を放出するので被曝影響が大きくなる.こうしたことも外部被曝にない内部被曝の特質である.
 図3に示されたように放射線の影響は個人差が大きく,標準的な人が発症しなくても,放射線感受性の高い人には影響が現れることを無視してはならないまた,図4に示されたように爆心地から1.2 kmまでは初期放射線による外部被曝が主要な影響を与えているが,1.2 kmより遠距離では放射性降下物による内部被曝が主要な影響を与えたことがわかる.
 これまでの放射性降下物による被曝線量の評価は,「黒い雨」と呼ばれる放射性降雨に含まれて地中に浸透した後,その後の火災雨や台風による洪水で流されなかった放射性物質が放出した放射線の測定結果にもとづいている.
 政府は図4に×印で示した広島の爆心地から西方約2 kmから4 kmの己斐・高須地域における積算被曝線量の0.006シーベルト〜0.02シーベルトのみ認め.その他の地域の放射性降下物は無視してきた.図4に示されるように,被爆者の間に生じた急性症状から推定した値は0.85シーベルトないし1.7シーベルトで,2桁の過小評価である.この過小評価が,ICRPの内部被曝の軽視と,今回の福島原発事故における内部被曝影響の軽視につながっている.
 ここで,線量当量の単位のシーベルトを用いてきたが,内部被曝に対する適切な単位が存在しないために,外部被曝と同等な急性症状の発症率を与える内部被曝の影響を表す線量当量の意味で用いている.図4に示された結果は,放射性物質による内部被曝の影響が外部被曝よりもはるかに深刻であることを示している.

4 低線量被曝影響の推定
 「確定的」影響である急性症状発症には,かつては,これ以下の被曝線量では症状は起こらないという「しきい値線量」が考えられていた.しかし,今日では図3のように発症率が分布していることがわかり,従来の「しきい値線量」に近い,発症率が5%ないし10%になる線量を「しきい値線量」と呼ぶ場合もある.古い「しきい値線量」の考え方に立って,「100㍉シーベルト以下の被曝ではまったく問題はありません」と言い切り,まれに放射線感受性のきわめて高い人が発症する可能性を否定しているのは正しくない.
 1ミリシーベルトの被曝では全身の細胞1個当たり520カ所以上の電離作用を受けて,ほぼ100%の細胞で誤った修復あるいは,修復できない損傷が生ずる.さらに被曝線量が増えると,1個の細胞の損傷箇所が増えて,細胞の機能の損失が生じ,細胞の死滅が増加する.多数の細胞が死滅すると急性放射線症を発症する.
 0.3 シーベルト,すなわち,300 ミリシーベルトの被曝では,脱毛と紫斑の発症率は 0.05%,すなわち1 万人が被曝して5 人,内部被曝による下痢の発症率は 0.08%,すなわち1 万人が被曝して8人が発症することになる.
 多数の細胞死によって発症する急性放射線症状は,被曝線量によって重篤度が異なり,低線量被曝ではきわめて限定的・部分的に細胞が死滅しても臨床的には症状として検出されない.現在までの福島原発事故による被曝線量では,急性放射線症状よりも次に考察する晩発性障害に重点をおいた対応が求められる.

5 低線量被曝と晩発性障害                        
 放射線に被曝しても,癌あるいは悪性新生物,甲状腺機能低下症などの晩発性障害の大部分や遺伝的影響は必ずしも発現するとは限らない.しかし,被曝線量が増えれば一般的に発症率・発現率が大きくなる.このような障害を確率的影響という.晩発性障害は一旦発症すれば,重篤度は被曝線量によらない.一般に晩発性障害の原因には、放射線被曝以外にもさまざまな原因があり、障害の起因性を急性症状のように放射線被曝であると特定することは困難である.そのため,まったく放射線被曝をしていない人々の集団の発症率と比較して被曝影響を求めることになる.特定個人の晩発性障害が放射線被曝によるかどうかの判定には,その個人の被曝前後の健康状態の変化を含め,過去からのさまざまな健康状態や他の疾病の経緯を総合して判断することになる.
 被曝線量と晩発性障害の発症との関係は,例外もあるが,中程度の被曝の場合には.晩発性障害発症率の増加が被曝線量に比例すると考えられている.この関係がそのまま,低線量領域においても成り立つかどうかについては,さまざまなモデルが提唱されて,明確な結論はいまだに得られていない.最近になって,マイクロビームの放射線を特定細胞に照射し,その細胞に生じた障害が,照射を受けなかった隣接細胞にも生ずるバイスタンダー効果と呼ばれる現象が確認されており,低線量被曝の方が深刻な傷害を引き起こす可能性も示唆されている
 こうした問題があるが,具体的に低線量被曝影響を推定するために,広島大学原爆放射線医科学研究所(原医研)が広島県居住の被爆者の悪性新生物による死亡率を広島県民と比較した研究「昭和43〜47 年における広島県内居住被爆者の死因別死亡統計」5)にもとづいて、直爆被爆者の悪性新生物による1年間死亡率と被曝線量の関係を求める.この論文は,爆心地から1 km 以内,1 km〜1.5 km,1.5 km〜2 km,2 km〜6 km の各区分の直爆被爆者と非被曝の広島県民の悪性新生物による1年間の死亡率に対し,それぞれ 0.504 %,0.454 %,0.347 %,0.374 %,0.186 %を得た.これらの死亡率を,図4に■印で示したABCC の脱毛発症率から求めた全被曝線量に対して示すと図5になる.
 爆心地から1 km未満の直爆被爆者の大半は,半致死線量の4シーベルト以上を被曝し,1968年までに死亡していることを考慮してこれを除き,悪性新生物



  図5 広島県居住被爆者の悪性新生物による1年間死亡率と被曝線量の関係

の増加が被曝線量に比例するとして回帰直線を求めると,年間死亡率= 0.138% ×被曝線量+0.186%となる.すなわち,悪性新生物による年間死亡率は1シーベルトの被曝により0.138%増加する.
 低線量被曝まで被曝線量に比例するとして,100万人が10㍉シーベルトの被曝をすると10年間で悪性新生物によって死亡する人が138 人増えることになる晩発性障害に対しても個人差が大きく分布しており,抵抗力が弱いとされている人や若年層の場合には100ミリシーベルトの被曝は要注意であるところが,政府は専門家の意見を聞いて急性症状の白血球減少症状が起こらないから,原発作業員の被曝線量許容限度を250 ミリシーベルトに引き上げた.しかし,しきい値論に立っての判断は危険で,作業員に被曝影響が出ても,しきい値以下だから放射線影響ではないと切り捨てる可能性がある.
 図5のように被爆者の悪性新生物による死亡率は非被爆者よりも高いにもかかわらず,全死因による死亡率は男女とも非被爆者より9%低率である.これは被爆者が年2回の健康診断を国の責任で行ってきたことの反映である5).このことは,原発作業員など,今回の放射線によって被曝した人びとに対し,健康管理を国の責任で行う必要性を示している.

おわりに
 原発は未完成な技術であるうえに、地震が多く人口が密集している日本ではいっそう危険性が高いので、一刻も早く原発を終息させ、エネルギー政策をあらゆる自然エネルギーの可能性を含めて転換すべきである.中部電力浜岡原発は、東海地震の震源域の上にあり、福島原発以上に深刻な事態を招くもっとも危険な原発である.そこで、3月15日に原発問題愛知県連絡センターは日本共産党愛知県委員会は中電に原発の即時停止を申し入れた。
 安全性の問題に加えて、①放射性廃棄物の処理に見通しがないこと、 ②米国核兵器産業維持のための日米原子力協定でスタートしたこと、③原子力平和利用の自主・民主・公開の3原則のすべてに反する原子力政策の実態、④独立した原子力安全委員会ないし規制委員会がないことなどの問題がある。 
 「安全神話」を振りまいてきた専門家を除き,自主・民主・公開の基本原則に基づいて国民の安全に責任を持つ専門家を総結集して,強い権限を持つ原発事故委員会を立ち上げ,事故の収拾計画,スポット状汚染地域の放射能のきめ細かい測定と居住環境の調査,被曝した人びとの健康管理,汚染土壌の処理を含めた農業などの安定的再開,海洋と水産物の汚染のきめ細かい測定と公表などを推進することが何よりも必要である.

引用文献
1) 山崎文徳,沢田昭二,原爆症認定集団訴訟運動の到達点,『日本の科学者』43, No.3, (2008).
2) Preston, D. L., 馬渕清彦, 児玉和紀, 藤田正一郎, 長崎医学会雑誌73, 251-253 (1998).
3) Kyoizumi, S.,Suzuki, T., Teraoka, S. & Seyama, T., Radat Res 194, 11-18 (1998).
4) 於保源作, 日本医事新報, No. 1746, 21-25 (1957).
5) 栗原登ら;広大原医研年報22 号;235-255,1981.

(『日本の科学者』2011年6月号緊急特集に掲載予定)

沢田昭二 略歴
1931年広島市に生まれる。1945年爆心地から1400mの自宅で被爆 現在名古屋大学名誉教授。
原水爆禁止日本協議会代表理事。原爆症患者の認定訴訟のために尽力。主な著書:「共同研究広島・長崎原爆 被害の実相」 「核兵器はいらない」 「素粒子の複合模型」「物理数学」など。

Tuesday, April 19, 2011

共同通信英語版の論説記事翻訳:チェルノブイリ専門家、「過小評価ではなく影響を最小化する対策を」A Kyodo Opinion Article by Alexey Yablokov: How to Minimize Consequences of the Fukushima Catastrophe

ヤブロコ博士らによるチェルノブイリ健康被害
研究結果をまとめた本 Chernobyl:
Consequences of the Catastrophe for People
and the Environment
(4月20日更新。沖縄タイムスに報道された記事を友人が送ってくれて、下に貼り付けています。これもネットにはないです。紙の媒体にアクセスできないので他に見かけたら教えてください。)

共同通信の英語版に掲載された、ロシアのアレクセイ・ヤブロコフ博士の論説を、翻訳ボランティアの方に即刻訳していただき、ここに紹介します。ヤブロコフ博士はチェルノブイリ原発事故の被害を過小評価しようとする重圧に屈せず、Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment 『チェルノブイリ――大惨事が人と環境に与えた影響』(2009年)を筆頭著者としてまとめました。この本の紹介と、書評、この本の研究結果についてのビデオ(日本語字幕版)はこちらをご覧ください。下記、共同の記事の日本語訳、英語の原文、3月27日に録画された最新のヤブロコフ博士のインタビュー(英語)ビデオ、福島原発事故が発生した後の報道でヤブロコフ博士の談話を掲載している報道(共同通信、西日本新聞)を紹介します。

「福島」の現実をまず受け入れて、被害を少しでも抑えるための具体的対策を提案する博士の姿勢は、チェルノブイリの経験と知識に裏付けされたものであり、日本政府や東電に真剣に耳を傾けてほしいです。「最小不幸社会」を目指す菅首相、原発事故の「不幸」を少しでも抑えるために、過小評価ではなく、影響の最小化のための具体策を一刻も早く実施してください。


論説:福島での大惨事の影響を最小化する対策とは

アレクセイ・V・ヤブロコフ

モスクワ、2011年4月15日、共同通信

クリス・バスビー教授(放射線リスクに関する欧州委員会=ECRR)は、日本の文部科学省の公式データに基づき、福島第一原子力発電所事故による土地での放射能汚染がもたらす健康への影響を分析した。これによれば、今後50年間で、同原発から半径200キロメートル圏内では約40万人のがん患者が追加的に生じる可能性がある。

この数字には縮小の可能性があるが、増大の可能性もありうるが、それは事故の影響を最小化する戦略が行われるかどうかだ。過小評価を行うことは、過大な評価を行うよりも、国民と国家により大きな危険をもたらすことになる。

チェルノブイリでの経験に基づき、今回の大惨事以前の生活を速やかに取り戻すことはできないであろうことを理解した上で、「福島後」の現実を可及的に速やかに受け入れることが重要だ。

取るべき行動の主な方向性は次の通り。

1. 立入禁止区域を最低でも福島第一原発の半径50km圏まで拡大すること

2. 食物による追加的な汚染を避けると共に、個々人の健康を守る効果的な方法に関する具体的な指示を提供すること。個人線量計による(放射線核種全体に関する)定期的な計測を全員について、少なくとも週に一度は実施すること。放射線防護剤や除染剤(放射線の有害な影響から身体を守る物質)を配布すること。こうした種類の食品添加物は数多く存在する。

3. 汚染地域での安全な営農に関する勧告を作成すること。具体的には牛乳の再処理、肉の除染、食用生産から工業用生産(例、バイオ燃料)への転換など。こうした「放射性核種耐性型」農業は高コスト(従来型農業と比較して最高で3~4割程度割高)なので、補助金を支出する必要がある。

4. 被曝した人々が被る短期的かつ長期的影響に対処するため(染色体分析に基づく医学・遺伝学的診断など)、既存の医療センターを緊急に改良する――可能ならば新設する――必要がある。

5. 汚染地域での「福島後」の生活を支援するもっとも効果的な方法は(チェルノブイリでの教訓に基づくと)最初の数年間のもっとも困難な時期に起きる汚染地域での諸問題に対処するため、特別で強力な省庁横断型の政府組織(省または委員会)を設置することだ。

放射線の影響への対処では多大な経験を有する、ロシアやベラルーシ、ウクライナの放射線医学や農業の専門家、放射線生物学者や放射線生態学者は日本にいつでも協力する用意があると私は確信している。

(アレクセイ・V・ヤブロコフ氏はロシア科学アカデミー評議員で『チェルノブイリ――大惨事が人と環境に与えた影響』(2009年)の筆頭著者。)


From YouTube:
Interview with Dr. Alexey Yablokov co-author of "Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment" recorded March 27, 2011.

Dr. Alexey Yablokov is a prominent Russian scientist, environmentalist, former member of the USSR parliament, and environmental advisor to former Russian President Boris Yeltsin and the Gorbachev administration. Dr. Yablokov has been a leader in efforts to reveal conservation and pollution challenges in Russia such as illegal whaling and radiation contamination, particularly in marine ecosystems and the biology of marine mammals.

OPINION: How to minimize consequences of the Fukushima catastrophe

By Alexey V. Yablokov

MOSCOW, April 15, Kyodo
http://english.kyodonews.jp/news/2011/04/85736.html

The analysis of the health impact of radioactive land contamination by the accident at the Fukushima Daiichi nuclear power plant, made by Professor Chris Busby (the European Committee of Radiation Risk) based on official Japanese Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology data, has shown that over the next 50 years it would be possible to have around 400,000 additional cancer patients within a 200-kilometer radius of the plant.

This number can be lower and can be even higher, depending on strategies to minimize the consequences. Underestimation is more dangerous for the people and for the country than overestimation.

Based on Chernobyl experiences, it is necessary to understand that it may be impossible to quickly get back to life before the catastrophe and to accept the post-Fukushima realities as soon as possible.

The main directions of actions that should be taken:

1. Enlarge the exclusion zone to at least about a 50-km radius of the plant;

2. Distribute detailed instructions on effective ways to protect the health of individuals while avoiding the additional contamination of food. Organize regular measurements of all people by individual dose counters (for overall radionuclides) at least once a week. Distribute the radioprotectors and decontaminants (substances which provide the body protection against harmful effects of radiation) of radionuclides. There are many of such food additives;

3. Develop recommendations for safe agriculture on the contaminated territories: reprocessing of milk, decontamination of meat, turning agriculture into production of technical cultures (e.g. biofuels etc.). Such ''radionuclide-resistant'' agriculture will be costly (it may be up to 30-40 percent compared with conventional agriculture) and needs to be subsidized;

4. It is necessary to urgently improve existing medical centers -- and possibly create new ones -- to deal with the immediate and long-term consequences of the irradiated peoples (including medical-genetic consultations on the basis of chromosome analysis etc.);

5. The most effective way to help organize post-Fukushima life in the contaminated territories (from Chernobyl lessons) is to create a special powerful interagency state body (ministry or committee) to handle the problems of contaminated territories during the first most complicated years.

I am sure that Russian, Belarusian and Ukrainian radiation medicine and agriculture specialists, radiobiologists and radioecologists who have enormous experience in fighting radiation consequences will be ready to cooperate with Japan.
(Alexey V. Yablokov is a councilor for the Russian Academy of Science and a principal author of ''Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment,'' published in 2009).

==Kyodo

参考報道

★沖縄タイムス 4月16日



★共同通信 3月25日

レベル6以上と海外専門家 スリーマイル超す事故

 【ワシントン共同】福島第1原発事故で、経済産業省原子力安全・保安院は国際的な評価尺度で「レベル5」の事故とする暫定評価結果を発表した。だが、周辺への影響は同レベルの評価を受けた米スリーマイルアイランド原発事故を既に上回っており「最終的にレベル6以上になるのは確実」との見方が海外の専門家に広がっている。

 レベル5は、0から7までの8段階の尺度のうち上から3番目。「発電所外へのリスクを伴う事故」を意味する。

 スリーマイル事故では、半径80キロ圏内に住む人が受けた放射線量は平均10マイクロシーベルトとされ、一般人の年間被ばく限度、千マイクロシーベルトの100分の1。健康に与えた影響は小さかった。

 一方、福島では、周辺の水や食物などから国の基準を上回る放射性物質が検出されていることから、外部に漏れた量はスリーマイル事故を大きく上回るとみられる。事故後3~4日の間に放出されたセシウム137の量は、レベル7の評価を受けた旧ソ連チェルノブイリ原発事故後10日間の量の20~50%に相当するとの試算もある。

 このため、フランス原子力安全局のラコスト局長は「レベル6の事故であることは明らか」と強調。米シンクタンクの科学国際安全保障研究所(ISIS)はレベル7に達する可能性もあるとした。

 チェルノブイリ事故の人や環境への影響を調べたロシアの科学者アレクセイ・ヤブロコフ博士は「福島事故はチェルノブイリ以上に深刻な事故になる恐れがある」と指摘。その理由として、燃料がチェルノブイリよりも多いことや、毒性の強いプルトニウムを含んだ燃料を使った原子炉があることを挙げている。

(2011年3月25日)

★西日本新聞

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/233873 

「放射能被害を過小評価」 ロシアの科学者 福島原発を懸念

2011年3月27日

 旧ソ連で1986年に起きたチェルノブイリ原発事故について、人や環境に及ぼす影響を調べているロシアの科学者アレクセイ・ヤブロコフ博士が25日、ワシントンで記者会見し、福島第1原発事故の状況に強い懸念を示した。博士の発言要旨は次の通り。

 チェルノブイリ事故の放射性降下物は計約5千万キュリーだが、福島第1原発は今のところ私の知る限り約200万キュリーで格段に少ない。チェルノブイリは爆発とともに何日も核燃料が燃え続けたが、福島ではそういう事態はなく状況は明らかに違う。

 だが、福島第1はチェルノブイリより人口密集地に位置し、200キロの距離に人口3千万人の巨大首都圏がある。さらに、福島第1の3号機はプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使ったプルサーマル発電だ。もしここからプルトニウムが大量に放出される事態となれば、極めて甚大な被害が生じる。除去は不可能で、人が住めない土地が生まれる。それを大変懸念している。

 チェルノブイリ事故の最終的な死者の推定について、国際原子力機関(IAEA)は「最大9千人」としているが、ばかげている。私の調査では100万人近くになり、放射能の影響は7世代に及ぶ。

 セシウムやプルトニウムなどは年に1-3センチずつ土壌に入り込み、食物の根がそれを吸い上げ、大気に再び放出する。例えば、チェルノブイリの影響を受けたスウェーデンのヘラジカから昨年、検出された放射性物質の量は20年前と同じレベルだった。そういう事実を知るべきだ。

 日本政府は、国民に対し放射能被害を過小評価している。「健康に直ちに影響はない」という言い方はおかしい。直ちにではないが、影響はあるということだからだ。

=2011/03/27付 西日本新聞朝刊=