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Tuesday, September 23, 2014

なぜ朝日新聞は攻撃目標にされたのか-田中利幸投稿第二弾!

各方面に転載・リンクされて大きな反響を呼んでいる、9月15日の田中利幸氏(広島市立大平和研究所教授)の投稿
朝日が修正した「吉田清治証言」は「河野談話」作成のためには全く使われていない。- 緊急寄稿「河野談話検証報告を検証する」に引き続き田中氏からの「第二弾」投稿です。
 
 
続編 河野談話検証報告を検証する

 - なぜ朝日新聞は攻撃目標にされたのか -

河野談話検証報告、国連自由権規約人権委員会勧告と朝日新聞攻撃をつなぐ流れ

 
田中利幸 
 
河野談話検証報告が公表されて1ヶ月も経たない71516日、ジュネーブで国連の自由権規約人権委員会が開かれ、6年ぶりで日本の人権保護状況に関する審査が行われた。審査の対象として、秘密保護法、ヘイト・スピーチ、福島原発事故影響など、前回の委員会ではとりあげられなかったテーマが新たに加えられたが、昨年20135月に開かれた国連拷問禁止委員会でと同様に、日本軍性奴隷問題、女性差別問題などが再び審査の対象となった。委員の質問に日本政府代表団(内閣官房、外務省、男女平等参画局、法務省などからの各担当者で組織されたグループ)が答えるという形で審査は行われた。その折、河野談話の検証について質問した女性委員ゾンケ・マジョディナ(南アフリカ)に対し、日本政府担当者は「当時、植民地統治下にあり、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意志に反してなされた」ことを認めつつも、「強制連行の事実は確認できない」という安倍政権の主張を繰り返した。マジョディナ委員が「『慰安婦』という言い方をやめて、強制的な『性的奴隷』と言うべき」であるとの発言に対しても、強制連行の事実は確認できないことから、『性奴隷』という表現は適切ではないと強く反論した。前述したように、「甘言、強圧による等、総じて本人たちの意志に反してなされた」行為が由々しい人権侵害であり犯罪行為であるという認識が政府代表者にも完全に欠落している。この日本軍性奴隷問題については、日本の死刑制度などと同様に、過去に何度も委員会から勧告を受けているにもかかわらず、日本政府が改善処置をとろうとは全く努力していないことを委員会のナイジェル・ロドリー議長(英国)が指摘して、「日本は国際社会に抵抗しているように見える」と苦言を呈する場面もあった。
 
ちなみに、この審査会には、日本から「慰安婦の真実国民運動 対国連委員会調査団」と称する10名ほどの日本人グループが傍聴に来ていた。その代表は、戦時中の日本軍による強制連行を「事実無根」と主張する女性団体「なでしこアクション」の代表でもあり、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の副会長を2011年まで務めていた山本優美子である。またこのグループには、アメリカのカリフォルニア州グレンデール市に設置された慰安婦像の撤去を求めて訴訟を起こした原告団、「歴史の真実を求める世界連合」の代表である目良浩一も加わっていた。このグループは、前述のマジョディナ委員の日本軍性奴隷問題に関する日本政府側の答弁に一斉に拍手を行って、審査の妨害行為とも受け取れるようなふるまいを行い、ロドリー議長から「許されない行為だ」と強く注意された。それのみか、審査セッション終了後には、彼女たちはマジョディナ委員に詰め寄って、「慰安婦は高額の給料を支払われていた売春婦」、「性奴隷20万人という数字の根拠は何か」などとまくしたてて抗議したため、マジョディナ委員が会場から助け出されなければならならないような状態になったとのこと。今回の審査では、女性差別、女性に対する家庭内暴力問題の上に、日本政府が表現の自由を侵害するとして規制を棚上げにしてきた、在特会に代表されるような組織によるヘイト・スピーチや拝外デモも審議されたが、まさにこの会場で、このグループは、審査対象となったヘイト・スピーチや拝外デモを、こともあろうに、委員たちの面前で実証した形となったのである。かくして、日本国首相である安倍とその一派を支援する右翼団体の一つが、国連の人権委員会の場で、首相と共有する女性差別意識と民族差別意識をあからさまにするという前代未聞の恥ずべき奇行を演じたわけである。つまり、日本政府と右翼団体の人権保護感覚の低劣さを、国連人権委員会の場で文字通り実証してしまった。 

審査を終え、2014723日、自由権規約人権委員会は日本政府への勧告文を発表した。その中で、「慰安婦」問題については、以下のようなコメントと勧告を行っている。「軍による強制連行」はなかったという主張にもかかわらず、多くの場合、女性の募集、輸送と「慰安所」における女性の管理が、軍または軍の委託業者によって、「女性の意思に反して、強圧や脅迫という手段で」行われたという日本政府の説明は矛盾している。そして、「本人の意思に反して行われるそのような行為は、いかなるものであろうと、十分、人権侵害にあたるものであり、国家に法的責任が伴う」と結論づけている。さらに、そのような日本政府の矛盾した見解に助長された人間や公的人物が、元「慰安婦」の名誉を傷つけることで彼女たちを再び犠牲者にしていると厳しく批判している。「公的人物」が安倍ならびに安倍一派の政治家、NHK会長や経営委員の一部を指していることは明らかである。人権委員会は、さらに、日本軍性奴隷の被害者が日本政府に謝罪と賠償を求めて日本の裁判所に訴えたケースにも言及し、国家無答責を理由に彼女たちの訴えを裁判所が退けることは人権侵害であるとも主張している。その上で、日本政府に対して、以下のような6つの即時かつ効果的な立法的および行政的措置をとるよう」要求している。 

  1)「慰安婦」に対して戦時中に日本軍が犯した性奴隷制ならびにその他の人権侵害に関する訴えを、効果的に、自律的に且つ公正に審査し、加害者を訴追し、有罪と見なされた場合には処罰すること

  2)被害者ならびにその家族に正義がもたらされ、完全な賠償が与えられるようにすること

  3)関連する全ての証拠を公開すること

  4)この問題に関して学生ならびに一般市民を教育し、その教育には教科書による適切な参考書を含むこと

  5)国家責任を公式に認め、公的謝罪を表明すること

  6)被害者を誹謗中傷したり、事実を否定するいかなる試みも糾弾すること 

 
これらの勧告内容は、これまで国連の人権関連委員会が繰り返し出してきた勧告とほぼ同じ内容の繰り返しであるが、今回は「関連する全ての証拠を公開すること」、「被害者を誹謗中傷したり、事実を否定するいかなる試みも糾弾すること」という2点が強調されている。これは、明らかに「河野談話検証」の不正なやり方と安倍一派ならびに在特会のような安倍支持団体が行っている「慰安婦バッシング」を念頭において入れられた厳しい勧告条項である。

この勧告発表に続き、86日には、国連人権高等弁務官の一人、ナバセム・ピレイ(南アフリカ)もまたこの日本軍性奴隷問題について意見を表明し、「(自分は)2010年に訪日した際、戦時性奴隷被害者に救済措置を提供するよう日本政府に求めたが、権利を求めて闘ってきた勇気ある女性たちが権利回復や賠償を手にすることなく、亡くなっているのを目にして心が痛む」と述べた。さらに、河野談話検証報告書が620日に公表された後、 「東京のグループが『慰安婦は性奴隷でなく、戦時売春婦だった』と公言した」が、「こうした発言は女性たちに多大な苦痛をもたらすにちがいない」とも述べて、安倍政権を厳しく批判した。 

自由権規約委員会による勧告が出された翌日の724日、官房長官・菅義偉は記者会見で、「わが国の基本的な立場や取り組みを真摯に説明したにも関わらず、十分に理解されなかったことは非常に残念だ」述べて、勧告内容に真っ向から対抗する姿勢を見せた。また、ピレイ発言に対しても菅は8月7日の記者会見で、「慰安婦問題は日韓請求権協定により完全に解決済みだというのが、わが国の一貫した立場だ」と反論。同時に「日本政府は道義的観点から、アジア女性基金を通じておわびの手紙や償い金を出し医療福祉事業を実施してきた」のだとも主張し、 今後も「粘り強く日本の立場を説明していきたい」と述べた。しかし、どれほど「粘り強く立場を説明」したところで、その「立場」自体が、被害者を「嘘つき」呼ばわりして彼女たちの人権を侵害し続けるようなものであるならば、事態がいつまでたっても改善しないことは自明である。 

こうして国連自由権規約委員会や人権高等弁務官に対する安部政権批判、とりわけ公表されたばかりの河野談話検証報告に対する厳しい批判に政府がさらされていた最中の85日、朝日新聞が、ひじょうに唐突と思われる「謝罪記事」を発表した。それは「『済州島で連行』証言 裏付け得られず虚偽と判断」と題されたもので、戦時中は日雇い労働者らを統制する組織である山口県労務報国会下関支部の動員部長をしていたと自称する吉田清治の虚偽の証言に基づいて、19829月から973月の間に16回「慰安婦」問題に関する記事を掲載したというもので、これらの記事を全部取り消すという発表であった。それと同時に、「慰安婦」の歴史に関する極めて基礎的な解説、強制性の問題、河野談話、アジア女性基金などの関連重要事項について合計8本の記事と識者5名(吉見義明、秦郁彦を含む日本人3名、アメリカ人日本研究者2)へのインタヴュー、合計14本にものぼる記事を856日の2日間にわたって掲載。その結果発表した朝日新聞の結論は、下記のように、ほぼ河野談話の内容に沿ったものとなっている。 

「日本の植民地だった朝鮮や台湾では、軍の意向を受けた業者が『良い仕事がある』などとだまして多くの女性を集めることができ、軍などが組織的に人さらいのように連行した資料は見つかっていません。一方、インドネシアなど日本軍の占領下にあった地域では、軍が現地の女性を無理やり連行したことを示す資料が確認されています。共通するのは、女性たちが本人の意に反して慰安婦にされる強制性があったことです。」 

つまり、朝鮮・台湾では女性の強制連行を証明する資料は発見されていないが、インドネシアでは確実に資料が存在すること。朝鮮・台湾では騙された結果「慰安婦」にされた女性が数多くいること。しかし、この場合も「本人の意志に反して『慰安婦』にされた」という意味では「強制性」があった、という3点を朝日新聞はここで確認したのである。この結論自体は、歴史的事実に沿った極めて正当なものである。 

問題は、吉田清治の虚偽の証言である。吉田は、1983年に『私の戦争犯罪』という題名の著書を出版し、その中で、19435月、西部軍動員命令で韓国の済州島に行き、兵士10人の応援をえて、205人の婦女子を「慰安婦」として強制連行したと書いた。さらに吉田は、済州島で多くの若い朝鮮人女性を「慰安婦」にするため、軍令によって、アフリカの奴隷狩りのごとく捕獲、拉致して強制連行したと講演会で繰り返し語り、朝日新聞だけではなく毎日新聞、読売新聞、産経新聞、共同通信などの記者にも「告白」していた。ところが、19923月、秦郁彦が済州島におもむき現地で聞き取り調査を行った結果、吉田証言には信憑性がないと結論し、同年430日に産経新聞でこれを発表。にもかかわらず、産経新聞は、199391日の紙面でも吉田を大きくとりあげ、(証言の)信ぴょう性に疑問をとなえる声があがり始めた」が、「被害証言がなくとも、それで強制連行がなかったともいえない。吉田さんが、証言者として重要なかぎを握っていることは確かだ」と報道している。19928月には、読売新聞も毎日新聞も吉田に関する記事を発表しているが、証言に疑いがあるなどとは全く記していない。吉見義明も、19935月に吉田に直接会って話を聞いてから、証言内容は信頼できないと判断した。朝日新聞は、19973月の段階で、吉田証言が虚偽だという確証はなかったが、真偽も確認できないため、これ以降は吉田証言に基づく記事掲載を止めた。ちなみに、吉田証言の信憑性が問題になっていた19923年、河野談話作成のために資料調査を行っていた政府は、吉田証言が偽証である疑いが濃いという判断からこれを資料としては使わないことを決めた

確かに、吉田偽証に基づく朝日新聞の掲載記事の数は、他紙発表のものよりはるかに多いように思われる。ところが、201485日に朝日新聞がこの件で訂正記事を大々的に掲載するまで、どの新聞社も自社の「誤報」を訂正するという記事は発表していない。ところが、この朝日新聞の記事訂正が発表されるや、産経、読売、毎日の各紙が、自社の誤報は棚に上げて、朝日新聞誤報を痛烈に批判する記事をこぞって発表。それに続いて、これまで長年にわたって韓国や中国に対する赤裸々な民族差別的記事と女性差別的な記事を毎週のごとく発表してきた週刊誌『週間文春』、『週間新潮』と『週間ポスト』が、朝日新聞を文字通り口汚く罵倒する記事を掲載し、あたかも「慰安婦制度」そのものがデッチアゲであるかのような記事を堂々と発表した。例えば、『週間文春』は「1億国民が被害者になった『従軍慰安婦』大誤報 朝日新聞の辞書に『反省』『謝罪』の言葉はない」(828日)、『週間新潮』は世界中に「『日本の恥』を喧伝した『従軍慰安婦』大誤報 全国民をはずかしめた『朝日新聞』七つの大罪 全世界で日本人を『性暴力民族』の子孫と大宣伝…」(828)といった具合である。これらの新聞、雑誌の朝日新聞批判の論調はどれもほとんど同じで、「訂正記事」だけを載せ誤報に関する「謝罪」がないのはけしからん、朝日新聞の誤報のゆえに「慰安婦強制連行」があったという事実無根の情報が世界中に流れ、日韓関係の悪化の原因となった、というものである。とりわけ、日韓関係を悪化させる憎悪に満ちた激しい民族差別的記事を長年にわたって毎週のように載せている『週間文春』が、朝日新聞の誤報を日韓関係悪化の「唯一無二の原因」と非難していることはあまりにも皮肉で、滑稽とすら聞こえる。 

この機会を待っていたとばかり、95日の記者会見で官房長官・菅は、1996年に国連人権委員会が「慰安婦問題」で初めて出した調査報告書「クマラスワミ報告」について、「その報告書の一部が、先般、朝日新聞が取り消した記事の内容に影響を受けていることは間違いないと思う。我が国としては強制連行を証明する客観資料は確認されていないと思う」(強調 – 引用者)と述べた。この報告書は、スリランカの女性法律家ラディカ・クマラスワミ特別報告官による調査結果で、数多くの被害者への聞き取り調査と出版物を基に作成されており、吉田証言はごく一部で使用されているだけである。この報告書が「慰安婦」を「性奴隷」と認定して日本に法的責任をとることを求めたことから、安倍一派ならびに安倍を支持する右派勢力から「河野談話」とともに目の敵にされてきた。菅は、ここでも元凶は朝日新聞の誤報であり、これが国際社会での誤解を生んだと朝日新聞を非難することで、国連人権委員会が事実に反する情報に基づいて日本政府に法的責任を求めているのだと主張したわけである。安倍政権による「クマラスワミ報告」批判の真の目的は、「クマラスワミ報告」以降、国連の人権関連委員会が幾度も出している「慰安婦問題」での勧告をこれ以上出させないように牽制することにあることは明らかである。このような姑息で野卑なやり方で国連人権委員会の勧告をなじることで、安倍政権の「慰安婦」問題への対応が極めて不当且つ不法であり、自分たちがどれほど人権感覚を欠落させているかをさらに世界に自ら知らしめているということにすら気がつかない、その国際政治感覚の低劣さは悲惨である。

安倍自身も、朝日新聞の誤報は、「日本兵が、人さらいのように人の家に入っていって子どもをさらって慰安婦にしたという、そういう記事だった。世界中でそれを事実だと思って、非難するいろんな碑が出来ているのも事実だ」と朝日新聞を非難。「世界に向かってしっかりと取り消していくことが求められている」、「一度できてしまった固定観念を変えていくのは、外交が絡む上では非常に難しい」などと述べて、朝日新聞の誤報のゆえに、日本は「慰安婦」問題で全くいわれなき非難を受けていると主張している。一方で「河野談話は継承する」と堂々と述べていながら、実際には「慰安婦に対する人権侵害などはなかった」のだ、それは朝日新聞の誤報のせいだと「朝日新聞バッシング」をやりながら「慰安婦バッシング」を展開しているのである。同時に、安倍支持者で「河野談話撤回要求」を出している高市早苗、有村治子、山谷えり子といった民族差別主義者を閣僚として取込み、「女性活用モデル」として利用しているのである。すなわち、すでに幾度も述べたように、この朝日新聞攻撃でも、安倍ならびに安倍一派が押し進めているのは河野談話の「空洞化」、そして最終的な「無効化」である。
 
筆者は、ここで朝日新聞を弁護しようなどという意図は全くない。19973月に吉田証言に基づく記事をそれ以後は掲載しないことを決定した段階で、記事訂正と謝罪を明確にしなかった朝日新聞側に落度があったことは明らかである。さらに、201485日に訂正記事を出したのと同時に謝罪文を掲載しなかったことも、大きな間違いであった。しかし、同時に、ひじょうに奇妙なことには、掲載記事数は少ないとはいえ、産経、読売、毎日などが訂正や謝罪をするどころか、強烈な朝日新聞批判記事を、恥じることもなく一方的に出していることである。ジャーナリストとしての倫理性に全く欠けるこれらの新聞社スタッフの良心は、いったいどこにあるのかと問いただしたい。さらに奇妙なことは、1997年に記事掲載停止を決めてから17年も経た今この時期になって、なぜゆえに突如として朝日新聞だけがこの問題で大々的な訂正記事と関連記事を2日間にわたって掲載したのか、その理由と動機はいったいなんだったのか、という疑問である。しかも、その時期が、河野談話検証報告発表、それに続く国連自由権規約委員会や人権高等弁務官による厳しい安部政権批判と、偶然にしてはタイミングがあまりにも合い過ぎていると思われることである。さらに、朝日新聞だけが攻撃目標とされたことは、2001130日にNHKが放送した「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」に関するテレビ・ドキュメンタリー番組を、当時、内閣官房副長官であった安倍晋三と中川昭一(当時、経済産業相)の2人が、NHKに圧力をかけてその番組内容を変更させていたことを、朝日新聞が20051月に暴露したことと関係があるのではないか?どこかで何か、我々が知らない、おぞましい政治的操作があったのかもしれないとの推測をせざるを得ない。

いずれにしても、今ひじょうに恐ろしい現象が日本を席巻しつつあることは間違いない。日本軍性奴隷問題での自分たちの長年にわたる「虚言」と「ごまかし」を隠蔽しつつ、自分たちに異を唱える人間あるいは特定のメディア組織が非意図的におかした間違いを「虚言」、「ごまかし」と激しく徹底的に非難攻撃し、潰してしまうことで、自分たちの「虚言」があたかも「真実」であるかのように国民に思い込ませる、危険きわまりない大衆心理操作が大々的に行われている。しかも多くのメディアと知識人が、その卑劣で不当な大衆心理操作に自ら加担することで権力に媚びていることを恥とも思わない状況。これは第2次世界大戦中に日本の軍事政権やナチス政権が行ったメディア支配と大衆心理操作を彷彿させる。 

安倍が国会議員となった1993年以来のこれまでの「慰安婦」問題をめぐる言動を詳しく分析してみると(残念ながらこの論考ではスペースの関係でそれができないが)、その結果として言えることは、安倍発言はその時々の政治状況によって頻繁に変節するのである。しかし、その変節が実は明らかな「虚偽」に基づいていることである。もちろん、彼の虚偽発言は「慰安婦」問題にとどまらない。典型的な一例は、20139月、ブエノスアイレスで開催された IOC 総会でのオリンピック東京招致委員会のプレゼンテーションで安倍が述べた、「私が保証します。(福島原発の)状況はコントロールされています」という明白な嘘である。ところが、不思議なことに、本人に「虚偽発言」を行っているという自覚が全くないことである。しかもその「虚偽発言」を、多くの安倍支持者たちも「虚偽」と思っていない、あるいは、思っていても言わないことである。つまり、文字通り「裸の王様」現象が起きているのである。これをどのように理解したらよいのであろうか。政治批評家・武藤一羊は、その理由を次のように明快に説明している。 

「安倍政権を特徴づけているのは、願望と自己都合に基づいて仮想現実をでっちあげ、それを現実に貼り付け、仮想現実の方を対象にして政治を展開するという政治手法である。

しかしそれだけであろうか。安倍がマジシャンなら、観客の目前で、たくみに巨象を消して見せる、そこまでは彼の能力として認めてもみよう。だが当のマジシャンが、象が本当に消えたと信じ始めたらどうであろう。そして、それに調子を合わせ、助手たちも、観客(の多数)も、象は本当に消えたとして振舞い始めたらどうであろう。そう信じなくても、信じるふりをして振舞い始めたらどうであろう。象はいつかどこからか出現し装置を破壊し彼と観客を踏みつぶすであろう。」(強調 - 引用者)

我々市民がその「象」に踏みつぶされる前に、マジシャンそのものを舞台から引き下ろさなければならない。 

 

しかし、なぜ日本国民はこうもたやすく政治家の「虚言」にだまされてしまうのであろうか。アジア太平洋戦争が終わったとき、当時の多くの国民が、政治家や軍人にだまされていたと感じた。政治家が国民を「だます」ことに関しては、敗戦1年後の19468月に、伊丹万作が記した有名な「戦争責任者の問題」というエッセイがある。その中で、彼は次のように述べている。 


「多くの人が、今度の戦争でだまされていたという。みながみな口を揃えてだまされていたという。私の知っている範囲ではおれがだましたのだといった人間はまだ一人もいない。………だますものだけでは戦争は起らない。だますものとだまされるものとがそろわなければ戦争は起らないということになると、戦争の責任もまた(たとえ軽重の差はあるにしても)当然両方にあるものと考えるほかはないのである。そしてだまされたものの罪は、ただ単にだまされたという事実そのものの中にあるのではなく、あんなにも造作なくだまされるほど批判力を失い思考力を失い信念を失い家畜的な盲従に自己の一切をゆだねるようになってしまっていた国民全体の文化的無気力無自覚無反省無責任などが悪の本体なのである。………… それは少なくとも個人の尊厳の冒涜、すなわち自我の放棄であり人間性への裏切りである。また、悪を憤る精神の欠如であり、道徳的無感覚である。だまされていたといって平気でいられる国民ならおそらく今後も何度でもだまされるだろう。」 (強調-引用者)

残念ながら、伊丹のこの言葉は当たっていた。戦後も「米軍核兵器の日本への持込みは許さない」、「非核三原則を維持する」、「沖縄返還密約はない」、「原子力安全神話」等々、次々と何度も日本国民はだまされてきた(奇しくも、だました政治家の中に安倍の祖父・岸信介と大叔父・佐藤栄作が含まれる)。そして今また、「福島第1原発の放射能汚染はコントロールされている」、「原子力規制委員会の安全審査に基づく原子力再稼働許可」、「平和憲法に則した集団的自衛権使用」、そして「慰安婦は高額の給料を支払われていた売春婦」と、安倍政権はいろいろと我々をだまし続けようとしている。ここで我々はもう一度、「あんなにも造作なくだまされるほど批判力を失い、思考力を失い、信念を失い、家畜的な盲従に自己の一切をゆだねるようになってしまっていた国民全体の文化的無気力、無自覚、無反省、無責任などが悪の本体なのである」という言葉をよく噛み締めてみる必要がある。


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成澤宗男
安倍晋三と極右歴史修正主義者は、世界の敵である 

参考サイト:
自由権規約委員会の日本審査の最終所見の「慰安婦」問題関連部分の日本語訳
http://wam-peace.org/20140725-2/

Thursday, September 18, 2014

琉球新報「声」欄より 「米軍のガードマン」(宮島玲子)

『琉球新報』9/16付け8面の「声」欄に掲載された宮島玲子さんの投稿を紹介する。

 【米軍のガードマン】

  辺野古での海上保安部職員の行為は日に日に暴力的になっている。
 
丸腰の市民を何の法的根拠も示さず安全指導という名目の下、手荒な方法で確保している。理不尽な暴力行為により怪我を負わされている市民は告訴も辞さない構えだ。
  
海上の現場に出られない私は、早速中城海上保安部と11管区海上保安部に抗議の電話をかけた。交換台から担当者に回してくれたが、何と卑怯なことにその担当者はすぐに録音モードに切り替えてしまう。
 
 どちらの保安部も市民の声を聞こうとしない。市民と対話せず只ひたすら逃げている。公務員は市民の声を聴く責務がある。それを放棄し回避しようとしている海上保安部の姿勢に猛烈に抗議をする。
 
 沖縄県民に罵詈雑言を浴びせながら全治二週間の怪我を負わせる、暴力団かと見紛う空恐ろしい行為。これが海猿の正体なのか。
   海を守り国民の命を守るという崇高な精神をかなぐり捨てた今の海保は、今や米軍のガードマンに成り下がった。何の誇りもないのか、矜恃はどこに消えたのか。
 
 速やかにその暴力的行為を止め、市民からの電話には録音テープなどで逃げず正々堂々と説明することを強く求める。



海保による暴力的対応の例として9月9日午後12時30分撮影された映像をジャーナリストのジョン・ミッチェル氏がアップしている。@SunshineMiyagi さん撮影のものだ。

http://www.jonmitchellinjapan.com/henoko-jcg-violence-9914.html

琉球新報がYouTube にアップしている。
【辺野古問題取材班】米軍普天間飛行場の辺野古沖移設に反対する住民の海上抗議活動が­活発化する中、海上保安庁(佐藤雄二長官)が警備活動中に暴力を振るっていることが明­らかになった。
詳しくはこちらの記事を。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-231432-storytopic-271.html


「信州沖縄塾」の伊波敏男さんより、『沖縄の〈怒〉』の感想文をいただく

信州沖縄塾」を運営している作家の伊波敏男さん(最近「琉球新報」に伊波さんについての大型記事が!ここで見られます)が、私がガバン・マコーマック氏と書いたの日本語版『沖縄の〈怒〉-日米への抵抗』(2013年、法律文化社)に大変ありがたい感想文を寄せてくれました。自分で紹介するのもおかしいかと思ったのですが、この本はちょうど先日、二刷にまでこぎつけることができたこともあり、再紹介の意味も兼ねて、伊波さんの許可を得てここに掲載させていただきます。そして、最後に伊波さんが書かれている、個人の責任を明確にするために「信州沖縄塾」の3つの目標の主語を「私たち」「私」に変更したとの記述を見て、私自身「私」という個人に問いかけられているような気がしました。沖縄を学び、学びにもとづく自らと自らの属する地域や日本という国を検証し、そしてそれぞれの「立場」ではなくて「自分の責任で」行動するとの目標は今こそ自分自身に突きつけなければいけないものだと思いました。もったいないほどの感想文をいただきながら、最後は「しっかり責任をもって行動しなさい」と言われたと理解しています。伊波さん、ありがとうございました。信州になるべく早く訪ねていきたいと思います。 乗松聡子




『沖縄の〈怒〉』。
ありがとう、心から。の最後の一行を今、読み終え、本を閉じました。 
ガバン・マコーマックさん、乗松聡子さん、私からも、「ありがとう、心から」の賛辞を送らせていただきます。 
私は沖縄で生まれ、家族は、私以外すべて沖縄在住です。そのため、沖縄の日々の出来事には、心を痛めながら、自然環境が豊かな長野県で生活を送っています。ですから、私の〈怒〉は日々の生活感では心の片隅に追いやられています。 
御著書は、とても走り読みすることはできず、やっと、本日、読み終えたところです。 
実に多くの示唆を得ることができました。自らの出自を沖縄とする当事者は、ややもすれば、怒りや失望感が強いだけに、つい、視点が鋭角的になり、総合的に問題点を整理し、連関させ、考察できずにいる弱点があります。 
ご著書は実証的で、時系列的考察や、沖縄で起こっている出来事が、国際的な関連性と、どのように関わっているのか、学ばせていただきました。
知念ウシさんが突きつけるメッセージは、「愚者の楽園」で眠りこけている『にっぽんじん』への労わりの剣先です。ちなみに私の母の名も「ウシ」でした。 
私は周りの者に、特に沖縄の市民運動に関わっている友人・知人に、この本こそ、沖縄問題の副読本にするべきだと薦めます。
乗松さんが書かれている「私にとっての9条活動すなわち平和と非戦のための活動は、沖縄に平和と正義をもたらす活動とイコールになりました」
この言葉が私を奮い立たせます。また、何と、あとがきに登場する、浦島悦子さん、石原昌家さん、豊里友行さん、牧志治さん、高里鈴代さんは、私と縁を結ばれている方々です。 
末筆になりますが、私が関わっている市民組織「信州沖縄塾」は、9月6日に第10回総会を開催しました。これまで、以下の3つの目標を掲げて活動してきましたが、今総会で塾生個人の責任を明確にするために二人称の「私たち」を、一人称の「私」に変更することになりました。 
◆目標
(1)私たちは沖縄の現状と歴史、文化をまなびます。→「私は」
(2)私たちは学んだことを糧にして、信州とこの国を検証します。→「私は」
(3)私たちはそれぞれの立場で行動します。→「私は自分の責任で行動します」 
いつか、お会いできますよう念願しております。ありがとうございました。 
2014/09/17 17:07
                                                                    伊波敏男

Monday, September 15, 2014

朝日が修正した「吉田清治証言」は「河野談話」作成のためには全く使われていない。- 緊急寄稿「河野談話検証報告を検証する」(田中利幸)The Seiji YOSHIDA testimony that Asahi retracted was NOT used for Kohno Statement: Yuki Tanaka on the Abe government's "review" of the Kohno Statement

日本軍「慰安婦」問題をはじめとする戦争責任問題についての著作や論文が多数あり、世界各国で講演する広島市立大平和研究所教授の田中利幸氏による緊急・重要投稿です。現在の「朝日新聞叩き」の中でどさくさに紛れて日本軍「慰安婦」の史実さえも否定しようとする勢力に惑わされてはいけません。忙しい人も以下の一点だけは必ず押さえてください。朝日新聞が訂正した、「吉田清治証言」は「河野談話」作成のためには全く使用されていません。したがって「吉田清治証言」報道をいまさら朝日新聞が修正したところで「河野談話」には全く影響はなく、ましてや「河野談話」を修正したりこれに代わる新たな「談話」を発表する理由などには全くなりません。

この点について田中氏の本文の最後の方から重要部分も抜粋しておきます。
最近、吉田清治の虚偽証言に基づいて朝日新聞が19829月以来たびたび記事を発表したことに対して、訂正記事を発表し、最終的に謝罪を行った。すでに述べたように、この吉田証言は河野談話作成のためには全く使われていない。当時の官房副長官であった石原信雄も、最近のテレビ・インタヴューで、吉田証言には虚偽の疑いがあったため河野談話作成のための資料としては使わなかったことをはっきりと認めている。にもかかわらず、朝日が訂正記事を発表するや、あたかも河野談話は吉田清治証言にのみ依拠して作成されたかのような発言が安倍支持一派から次々に出され、「強制」はデッチアゲであるという非難の声をあげている。朝日新聞が30年余りたった現在になってようやく誤りを認めて関連掲載記事を取り消したが、もっと早く訂正・謝罪をしておくべきであった。この点、朝日新聞に大きな落度があったことは言うまでもない。しかし、当時、同じように吉田清治虚偽証言を信じて報道していた読売新聞や共同通信はほとんど非難を受けず、朝日新聞だけが攻撃のマトになったことに深い違和感を感ぜずにはいられない。これも、「河野談話検証」と連結した「河野談話空洞化作戦」の一つであろう。その最終目的は、河野談話を正式に無効とし、新しく「安倍談話」なるものを発表し、それを日本政府の公式見解としてしまうことである。

朝日新聞叩きを読みながら「あら、『慰安婦』の強制はやはりなかったのかしら。証言も嘘だったのかしら」などと思っているかもしれない人々へー週刊誌の中吊り広告的な扇動的な情報に惑わされず、冷静に信頼できる情報源を判断してください。

日本軍『慰安婦』について史実を確実な証拠と共に学べるサイトの一つとしてこれを紹介します。

日本軍「慰安婦」-忘却への抵抗・未来への責任
http://fightforjustice.info/ 

まずはこの田中氏の寄稿を読むところからスタートしてください。今こそ日本人の良識と良心が問われています。またこの投稿の転載、投稿からの引用には初出として必ずこの投稿のURLを記してください。@PeacePhilosophy



河野談話検証報告を検証する

 


田中利幸

 

「河野談話」空洞化を意図して作成された検証報告

2014620日、日本政府は、旧日本軍による「従軍慰安婦」への関与と強制性を認めた1993年の河野洋平官房長官談話の「検証結果」と称して、「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯:河野談話作成からアジア女性基金まで」と題する報告書を公表した。検討委員を務めたのは、但木敬一(元検事総長)、秋月弘子(亜細亜大学教授 国際法専攻)、有馬真喜子(ジャーナリスト)、河野真理子(早稲田大学教授 国際法専攻)、秦郁彦(現代史家)の5名であった。日本軍性奴隷制問題を検討するためには関連の歴史的専門知識が必要とされることは言うまでもないことである。しかし、検討委員の中で歴史家は秦郁彦ただ一人であり、しかも秦は「女性の強制連行は基本的にはなかった」と、安倍一派に近い見解をとっている人物である。報告書の内容は第1部「河野談話の作成の経緯」と第2部「韓国における『女性のためのアジア平和国民基金』事業の経緯」に分けられているが、冒頭で河野談話を再検討しなければならなくなった理由だとして、次のように3点を挙げている。 


    「河野談話については,2014220日の衆議院予算委員会において、石原元官房副長官より、1.河野談話の根拠とされる元慰安婦の聞き取り調査結果について、裏付け調査は行っていない、2.河野談話の作成過程で韓国側との意見のすり合わせがあった可能性がある、3.河野談話の発表により、いったん決着した日韓間の過去の問題が最近になり再び韓国政府から提起される状況を見て、当時の日本政府の善意が活かされておらず非常に残念である旨の証言があった。」
 

ここでも、検討の焦点はあくまでも元「慰安婦」証言の信憑性であり、歴史的事実に関する他の関連資料の検討は最初から全く考慮に入れるつもりがないことを明らかにしている。そうした批判が出るであろうことを最初から予測してであろうが、「検討チームにおいては、慰安婦問題の歴史的事実そのものを把握するための調査・検討は行っていない」という一文を最後に入れている。つまり、「歴史的事実の検証」は最初からこの検討グループの目的ではないことにしてしまうことで、批判をかわそうとしているのである。談話の内容を検討するのであれば、談話作成の土台となった最も重要な歴史的事実に関連する資料を詳細に検討するのが当然且つ必然の手続きであるが、それについては一切調査・検討は行わないというのである。これがゴマカシでなければ、いったい何のための検証か。しかも、「いったん決着した日韓間の過去の問題」を再三にわたり蒸し返し、河野談話への攻撃を執拗に行ってきたのは安倍晋三本人と安倍を支持する右翼勢力であるにもかかわらず、厚顔無恥にも最近になり再び韓国政府から提起される状況」になったと主張し、あたかも韓国側に責任があるかのごとく主張している。報告書の冒頭のこの1節に目を通すだけで、報告書内容がどのようなものになっているのは大かた推測がつくというものである。

第1部は「河野談話の作成の経緯」と題されてはいるが、その内容は、この問題での真相究明の方法をめぐって、当時の宮沢内閣と韓国政府がどのような交渉を行ったかの説明のみに当てられており、繰返して述べるが、河野談話作成のために使用された歴史的事実に関する様々な資料の評価は一切行われていない。しかも、河野談話作成をめぐっては、日韓両政府の間で様々なやりとりがあったことをとりあげて、「河野談話の作成過程で韓国側との意見のすり合わせがあった可能性がある」ことをなんとしても裏付けようという意図が明白である。どのような国際関係問題であっても、当事国の間で、結論が出るまでには様々な外交交渉が行われるのは当たり前である。にもかかわらず、この問題では外交交渉が行われたことがあたかも異常事態であったかのように描写している。しかも、日本政府側が「強制」という事実を証明する資料がないと繰り返し主張したにもかかわらず、韓国側からの一方的な強い要求を最終的には受け入れざるをえなくなり、日本側が不本意ながら「強制」を認める形で河野談話は作成されたという印象を強くあたえようという意図で報告書のこの部分は書かれている。河野談話作成に使用された資料の中で、この報告書で唯一問題にされているのが、「元慰安婦からの聞き取り調査」であり、その経緯を調査した結論として報告書は以下のように記している。


「聞き取り調査の位置づけについては、事実究明よりも、それまでの経緯も踏まえた一過程として当事者から日本政府が聞き取りを行うことで、日本政府の真相究明に関する真摯な姿勢を示すこと、元慰安婦に寄り添い、その気持ちを深く理解することにその意図があったこともあり、同結果について、事後の裏付け調査や他の証言との比較は行われなかった。聞き取り調査とその直後に発出される河野談話との関係については、聞き取り調査が行われる前から追加調査結果もほぼまとまっており、聞き取り調査終了前に既に談話の原案が作成されていた。」(強調引用者)
 

かくして、「強制」の事実については、この報告書は、その信憑性が疑わしいにもかかわらず、それは問題にせず、親切にも日本政府側は、元「慰安婦」の人たちの気持ちに十分配慮して、彼女たちの証言を調査する前から全面的に受入れていたのだ、と主張しているのである。つまりは、元「慰安婦」証言は、その内容は全く検証せずに政治的な判断から受入れを決めていたのだと主張しており、それは裏返せば、「彼女たちの証言は真実ではない」ということを暗示しているわけで、日本軍性奴隷制の犠牲者をいたく侮蔑した記述である。 

2部「韓国における『女性のためのアジア平和国民基金』事業の経緯では、被害者女性たちへの「償い金」支払いや医療福祉事業は、日本側の全面的な善意から計画されたものであるにもかかわらず、韓国メディアによる「基金」事業の激しい非難や「償い金」を受け取ろうとする元「慰安婦」へのハラスメントがあったこと、さらにはこうした民間側からの強い反発に憂慮した韓国政府も「基金」事業の受入れに消極的になってしまったことが失敗の原因であると、これまた一方的に韓国側を非難している。それと比較して「フィリピン、インドネシアやオランダでの『基金』事業では、相手国政府や関連団体等からの理解や肯定的な評価の下で実施できたと」主張している。しかし、実際には、これらの国々でも当初はかなりの反発がみられ、「償い金」受取を拒否し続けた被害者が多くいた事実などについては、報告書は詳しく触れていない。 

問われるべき最も重要な問題は、被害者女性の全てではないとしてもその多くが、また彼女たちを支援する民間団体がなぜゆえに「基金」事業にそれほどまでに強い不満を持っていたのかということである。この自己検証的問題追求が、報告書では全くなされていない。 

「基金」非難の中で何よりも重要な点は、「国民基金」と銘打ちながら、実際に日本国民が個人として寄付した金額は少なく、大部分が政府から要請を受けた官庁職域や労働団体、企業等からの寄付金によるものであった。しかも、民間事業という体裁をとりながら、実際の「償い金」の金額の決定に際しては、いろいろな政治的配慮から一人200万円という額を政府側が強く主張して、これを「基金」理事会側に承諾させている。さらに、政府側は、被害者女性が「償い金」を受け取ることで、現在日本で裁判訴訟を行っている場合はこれを取り下げること、あるいは将来訴訟は行わないことの被害者からの確約を期待していた。さらに、首相が社会党の村山富市から自民党の橋本龍太郎にかわると、橋本は、裁判訴訟との絡みで、「償い金」と一緒に被害者に手渡す「謝罪の手紙」を送ることを躊躇したことなど、相手側に日本政府への不信を強く起こさせるような様々な問題を、この「基金」事業のあり方自体が孕んでいたのである。すなわち、韓国のみならず、その他の国々の当事者ならびに関係者に、「基金」に対する疑念と対日不信を起こさせる原因の多くは、日本政府と「基金」側にあったにもかかわらず、これに対する「検証」は、この報告書では全く行われていないのである。 

国民基金」と銘打つならば、日本国民全体が日本軍性奴隷制問題に対する道義的責任をはっきりと認識し、それに対する責任を自覚し、そうした歴史認識と自覚のもとに犠牲者への真摯な「償い」として「基金」事業が実施されるように、日本政府がすすんで努力しなければならない。ところが、一方で、学校教育では日本軍性奴隷制問題のみならず、日本軍がアジア太平洋各地で犯した様々な残虐な戦争犯罪行為を教えることは拒否するのみならず、そのような歴史事実そのものを否定するような歴史観の拡散をはかっているわけであるから、道義的責任感が国民的に共通な意識となるはずがない。それゆえ、韓国側からみれば、「基金」事業は日本政府が戦争責任を逃れるための、いわば「隠れ蓑」のようなものではないかという疑念が起きたのも当然である。 

したがって、「基金」事業が「基金」に直接関わった当事者以外からは、日本国内でも海外でもほとんど評価されなかったのも不思議ではない。河野談話検証の検討委員を務めた5名のうち、有馬真喜子は「基金」の理事の一人であり副理事長も務めたし、秦郁彦は「基金」の資料委員会のメンバーで有馬とも交流があった人物である。あらためて言うまでもないことであるが、「基金」に直接関わっていた人間が、「基金」事業の検証を行うということ自体がそもそもおかしいのである。 

19988月に国連人権委員会差別防止・少数者保護小委員会で採択されたゲイ・マクドゥーガル報告書以来、幾度にもわたって国連に提出された日本軍性奴隷問題関連の報告書が、日本の「法的責任」を厳しく問いただしている。ところが、「基金」は、「法的責任」には全く配慮しないままで、事業をすすめてきた。国際社会からの「基金」評価が極めて低い理由は、この点にもある。河野談話検証の検討委員には、国際法専攻の秋月弘子と河野真理子の2人もの女性学者がいながら、この点に関する「検証」も全く行われていない。この2人は、いったいどんな「検証」作業に携わったのであろうか。 

したがって、結論として言えることは、河野談話の「検証結果」である報告書、「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯:河野談話作成からアジア女性基金まで」は、最初から2つの極めて政治的な目的のために作成されたことが判明する。一つは、「慰安婦」と呼ばれた女性たちへの性奴隷制的「強制」はなかったのであり、犠牲者女性たちによる「証言」には信憑性がないという安倍内閣の主張をあらためて強調すること。すなわち、「河野談話は継承する」と述べておきながら、事実上は河野談話の空洞化をはかり最終的には無効にしてしまうこと。もう一つは、きわめて評判の悪かった「女性のためのアジア平和国民基金」の自己正当化である。このような内容の河野談話の「検証結果」発表は、「慰安婦問題」の解決どころか、国際社会から、安部政権の、ひいては日本全体に対する不信感をますます強めることになることは自明のことであるが、そのあまりにも自明なことが、安倍本人のみならず、安倍内閣閣僚を含む安倍支持者、さらには検証グループの5人のメンバーにも全く認識されていないようである。


「河野談話」作成の背景と「強制」問題
 
河野談話がどのような経緯で、どのような資料に基づいて作成されたのかを、もう一度ここで確認しておきたい。同時に、「強制」という問題についても、どのように解釈すべきかについて確認しておこう。その前に、最近「朝日新聞」の誤報で問題なった「吉田清治証言」は、信憑性が疑わしいという判断から、河野談話作成の資料としては全く使われていない、ということもここで再確認しておく。

19906月、参議院予算委員会において当時の社会党議員・本岡昭次が日本政府に対して「慰安婦」の調査に関して質問した際、労働省職業安定局長が「民間の業者がそうした方々を軍とともに連れ歩いて」いたという状況ゆえに調査はできないと答弁。すなわち、政府にはこの問題に関しては責任がないという主張を行った。これを知った日本軍性奴隷制の犠牲者の一人である韓国人、金学順(キム・ハクスン 192497年)が、この発言に激しい怒りを感じ、日本政府の責任を問うため、それまで長年の間、自分の恥として隠してきた「慰安婦」という過去を公表することを同年8月に決意し、記者会見を行った。さらに12月には、彼女は日本政府に謝罪と賠償を求めて東京地裁に提訴した。翌19911月、中央大学教授・吉見義明が防衛庁図書館で、軍が直接関与していたことを示す公文書を発見し、このことが大きく報道された。そのため政府はやむなく調査(第1次調査)を開始し、同年7月にその結果を発表して、軍ならびに政府が関与していたことを認めた。ところが、この段階では女性の強制連行については資料が見つからないと政府が主張したため、国内外から強い非難を浴びた。 

こうした背景のもとで、1992116日に訪韓した宮澤喜一首相が盧泰愚(ノテウ)大統領との会談で、「慰安所」設置に日本政府が関与していたことを認め、この問題について真相究明を行うことを約束した。同年731日には韓国政府が『日帝下 軍隊慰安婦実態調査 中間報告』を発表し、その中で、「慰安所」の設置、「慰安婦」の集めかたや輸送方法などについて、当時の日本軍が作成した多くの資料を参照しながら解説すると同時に、13名の元慰安婦の証言を紹介した。この中間報告書には、戦時中に連合軍側が作成した調査資料も添付されていた。日本政府は、この中間報告書や、韓国挺身隊問題対策協議会・挺身隊研究会が19名の韓国人元「慰安婦」被害者を聴き取り調査して作成した『証言集1 強制的に連行された朝鮮人従軍慰安婦』(19932月発行)、さらにはオランダ軍が戦後の1948年に行った「バタビア裁判」(南方軍幹部候補生教習隊の士官たちが35名のオランダ人女性を「慰安所」に強制連行し強姦した犯罪審査)記録、戦時中に米軍が作成した関連報告書など、合計260点以上の資料を参考にし、その上、実際に16名の元「慰安婦」と軍慰安所関係者約15人から聴き取り調査を行った。政府(内閣外政審議室)は、「いわゆる従軍慰安婦問題について」と題したこの第2次調査の結果を、199384日に公表したが、その中で以下の3点を調査対象としたことが説明されている。


   「調査対象機関

   警視庁、防衛庁、法務省、外務省、文部省、厚生省、労働省、国立公文書館、国立国会図書館、米国国立公文書館

   関係者からの聞き取り

   元従軍慰安婦、元軍人、元朝鮮総務府関係者、元慰安所経営者、慰安所付近の居住者、歴史研究家

   参考とした国内外の文書及び出版物

   韓国政府が作成した調査報告書、韓国挺身問題対策協議会、太平洋戦争犠牲者遺族会など関係団体等が作成した元慰安婦の証言集等。なお、本問題についての本邦における出版物は数多いがそのほぼすべてを渉猟した。」 

   その結果として、「慰安所」の経営と「慰安婦」の募集については、以下のように報告している。
   

   「(6)慰安所の経営及び管理

   慰安所の多くは民間業者により経営されていたが、一部地域においては、旧日本軍が直接慰安所を経営していたケースもあった。民間業者が経営していた場合においても、旧日本軍がその開設に許可を与えたり、慰安所の施設を整備したり、慰安所の利用時間、利用料金や利用に際しての注意事項などを定めた慰安所規定を作成するなど、旧日本軍は慰安所の設置や管理に直接関与した。

   慰安婦の管理については、旧日本軍は、慰安婦や慰安所の衛生管理のために、慰安所規定を設けて利用者に避妊道具使用を義務付けたり、軍医が定期的に慰安婦の性病等の検査を行う等の措置をとった。慰安婦の外出の時間や場所を限定するなどの慰安所規定を設けて管理していたところもあった。いずれにせよ、慰安婦たちは戦域においては常時軍の管理下において軍と共に行動させられており自由もない痛ましい生活を強いられたことは明らかである

   (7)慰安婦の募集

   慰安婦の募集については、軍当局の要請を受けた経営者の依頼により斡旋業者らがこれに当たることが多かったが、その場合も戦争の拡大とともにその人員の確保の必要性が高まり、そのような状況下で、業者らが或は甘言を弄し或は畏怖させる等の形で本人たちの意向に反して集めるケースが数多く更に官憲等が直接これに加担する等のケースもみられた。」(強調引用者)

   
長年にわたって、そして今も、安倍晋三ならびに彼を支持する政治家や知識人グループは、「軍や官憲が、暴行・脅迫を使って女性を連行(略取)」したのでなければ「強制」ではないという論法をとって、これに当てはまるようなケースを証拠付ける公的資料はないと主張し、したがって日本政府には責任がないことにしてしまおうと躍起になっている。暴行や脅迫で女性を強引に連れ去り、第三者の支配下に置くことが「略取」であり、甘言を弄し女性を騙して生活環境から連れ去り、第三者の支配下に置くことは「誘拐」である。しかし、どちらの行為も刑法では同じ「略取・誘拐罪」であり、この「略取・誘拐罪」は戦後だけでなく、戦前・戦中も明確に定義された犯罪だった。したがって、「略取」と「誘拐」を分けて、一方だけを「強制に基づく犯罪」と見なすこと自体が間違っているのである。河野談話発表の約4カ月前には、当時の谷野作太郎外政審議室長も参院予算委員会で「強制は単に物理的に強制を加えることのみならず、脅かし、畏怖させ本人の自由な意思に反した場合も広く含む」とはっきりと答弁している。しかも、この第2次報告書で明らかにされているように、上記のような様々な資料を調査した結果、「甘言を弄し」て女性を騙し、その結果、彼女たちを「本人たちの意向に反して集め」、「自由もない、痛ましい生活を強い」た責任を日本政府はここで明確に認めたのである。騙された結果、あるいは親の謝金のために無理矢理「慰安婦」にさせられたケースについては、米軍が戦時中に戦地で保護した「慰安婦」からの聴き取り調査として米軍報告書でも詳しく記されている。「本人たちの意向に反して女性を集め、自由もない、痛ましい生活を強いた」ことが「強制」でないとしたら、なんと表現するのであろうか。繰返し述べておくが、甘言を弄し女性を騙して連れ去り、第三者の支配下に置くことは「誘拐」という犯罪行為であり、由々しい人権侵害である。

しかも実際には、日本軍将兵が女性を暴力的に略取してきて強姦し、長期間にわたって性奴隷として監禁した例は、抗日武装活動が激しかった中国大陸北東部やフィリッピンでは数多くあったことがこれまでの調査研究で明らかとなっている。さらにインドネシアでは抑留所に入れられていたオランダ人市民女性を日本軍が文字通り強制連行して「慰安所」に送り込み、強姦したうえで性奴隷にしたこと(いわゆる「スマラン事件」)が戦後のオランダ軍による戦犯裁判でも明らかにされた。それゆえ、「強制連行を証明する資料はなんら存在しない」という安倍たちの主張には、全く正当性がない。 

2次調査結果報告の内容には、「慰安所」が設置された地域から東チモール、マリアナ諸島、パラオ、ナウル、インドなど幾つかの地域名が落ちている。さらに、女性の中には略取、誘拐、人身売買されて「慰安所」に連行されてきた者がいたことを軍当局が明らかに認識していながら、女性を解放せずに性奴隷として監禁していたケースが多々あったことも明確には記述されておらず、暗示的な表現に留まっているなど、その記述には幾つかの問題点がある。しかしながら、「慰安婦」と呼ばれた女性たちが実質的には軍性奴隷であったこと、その責任が日本軍ならびに日本政府にあったことを基本的に認めていると言う点では、この報告書は積極的に評価できる。 

2次調査結果報告発表と同時に、政府はこれらの調査結果にも基づいて河野洋平内閣官房長官が「談話」として発表。その「談話」の中で、宮沢内閣は、はっきりと日本政府の責任を以下のように認めた。 

          「今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を 受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに 加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。
 なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。
 いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。」(強調 – 引用者)

 
ちなみに、元「慰安婦」が日本政府に謝罪と賠償を求めて日本政府を被告に日本の裁判所に訴えたケースは、1991年から2001年までの間に、全部で10件となっている。そのうちわけは、中国人被害者によるもの4件(原告数合計24名)、韓国人被害者によるもの3件(原告数合計13名)、台湾人被害者によるもの1件(原告数9名)、オランダ人被害者によるもの1件(原告数1名)、フィリッピン被害者によるもの1件(原告数46名)となっている。裁判の結果は全てのケースで、国家無答責(戦時中の国家不当行為から生じた個人の損害について国は賠償責任を負わない)や請求権放棄(日中、日韓の間での請求権放棄は条約に定められている)などの理由から、原告(被害者)の請求を認めないものとなっている。すなわち、全てのケースで原告側が敗訴している。 

しかしながら、台湾とフィッリピンのケースを除いた他の8件のケース全てで、軍・政府が「慰安所」の設置や管理に直接関与し、「慰安婦」の「募集」にあたっては、女性の意思に反して軍が女性を集めたり官憲が加担したという歴史的事実や、軍人による女性の拉致・強制連行があった事実を裁判所が認定しているのである。したがって、この裁判ケースでの被害の事実認定によってもまた、安倍たちが主張する「狭義の強制連行(=軍が直接暴行脅迫を用いて女性を連行)はなかった」という主張が、事実とは全く反する、いかに不当なものであるかは明らかである。 

最近、吉田清治の虚偽証言に基づいて朝日新聞が19829月以来たびたび記事を発表したことに対して、訂正記事を発表し、最終的に謝罪を行った。すでに述べたように、この吉田証言は河野談話作成のためには全く使われていない。当時の官房副長官であった石原信雄も、最近のテレビ・インタヴューで、吉田証言には虚偽の疑いがあったため河野談話作成のための資料としては使わなかったことをはっきりと認めている。にもかかわらず、朝日が訂正記事を発表するや、あたかも河野談話は吉田清治証言にのみ依拠して作成されたかのような発言が安倍支持一派から次々に出され、「強制」はデッチアゲであるという非難の声をあげている。朝日新聞が30年余りたった現在になってようやく誤りを認めて関連掲載記事を取り消したが、もっと早く訂正・謝罪をしておくべきであった。この点、朝日新聞に大きな落度があったことは言うまでもない。しかし、当時、同じように吉田清治虚偽証言を信じて報道していた読売新聞や共同通信はほとんど非難を受けず、朝日新聞だけが攻撃のマトになったことに深い違和感を感ぜずにはいられない。これも、「河野談話検証」と連結した「河野談話空洞化作戦」の一つであろう。その最終目的は、河野談話を正式に無効とし、新しく「安倍談話」なるものを発表し、それを日本政府の公式見解としてしまうことである。 

これまで、国連経済社会理事会社会権規約委員会や国連拷問禁止委員会がたびたびこの日本軍性奴隷問題をとりあげ、日本政府に対して勧告を行ってきた。今年724日にも、国連人権委員会が再びこの問題で勧告を出し、「本人の意思に反する行為は人権侵害とみなされる」と判断し、被害者女性たちの人権侵害を調査して責任者を訴追・処罰し、本人と家族が完全な賠償を受けられるように求めた。同時に、日本政府が「公的に謝罪を表明し、国家責任を正式に認める」ようにも促した。しかし、これまで日本政府は、国際社会からのこうした度重なる批判を基本的には無視し続けてきたのである。とりわけ安倍内閣は、さまざまな詭弁を弄した姑息なやり方で、河野談話を継続すると言いながら空洞化させ、国内ならびに国際社会の両方からの批判に、「『慰安婦』への強制はなかった」という「虚言」で反撃している。このようなよこしまで邪悪な言動を続ければ続けるほど、日本国内だけではなく海外諸国でも、安倍自身と日本政府の両方の政治的信用性をますます落とすだけであるということに、安倍本人と彼の支持者たちが気がついていないことが、日本にとってはまことに悲劇である。「女性が活躍し輝く社会をつくる」と主張する一国の首相が、他方で卑劣な嘘で「慰安婦バッシング」を続けているような国、そんな国を国際社会は本当に信頼するであろうか。
 

2014915


【9月16日追記-一か所加筆のお知らせ】

9月15日の投稿で

したがって、「略取」と「誘拐」を分けて、一方だけを「犯罪」と見なすこと自体が間違っているのである。

とあったところを筆者から加筆の指示があり、

しかし、どちらの行為も刑法では同じ「略取・誘拐罪」であり、この「略取・誘拐罪」は戦後だけでなく、戦前・戦中も明確に定義された犯罪だった。したがって、「略取」と「誘拐」を分けて、一方だけを「強制に基づく犯罪」と見なすこと自体が間違っているのである。

と差し替えております。本文の中、修正箇所がわかるように色を変えてあります。

★この追記事項は一週間ほどで削除し、本文中の差し替えた箇所も黒字に戻します。
(追記以上)
 

主な参考文献:

河野談話作成過程等に関する検討チーム慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯:河野談話作成からアジア女性基金まで』(内閣官房・外務省 2014620日)
 

*戸田悠希著「アジア女性基金に関する一研究」『立命館法政論集』第8(2010)
 

*林博文、俵義文、渡辺美奈共著『「村山・河野談話」見直しの錯誤:歴史認識と「慰安婦」問題をめぐって』(かもがわ出版 2013年)
 

*坪川宏子、大森典子共著『司法が認定した日本軍「慰安婦」』(かもがわブックレット  2011年)
 

*『季刊 戦争責任研究 第82号 特集「河野談話」と日本軍資料』(日本の戦争責任資料センター 2014年)